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2021.08.12 Thu

本の紹介

「教室から世界一周!」プロジェクト設立者・堂原有美さんが選ぶ5冊の本┃日本と世界をつなぐ、未来への道しるべになった「世界を知るための本」

人生で特別な5冊を紹介してもらう連載企画「5冊の本」。

今回お話を伺うのは、日本と世界の子どもたちをオンライン授業でつなぐ「教室から世界一周!」プロジェクトを2020年5月に起ち上げ、精力的に活動を続けている株式会社WTOC(ウトック)代表の堂原有美さん

元々は大手広告代理店に勤める広告プランナーで、“イケメン武将隊”でおなじみ「名古屋おもてなし武将隊」の起ち上げや企画に奔走。2010年に26億円の経済効果を生み出すなど話題を呼びました。

そんな輝かしい活躍をしてきた堂原さんが一転、「人生100年時代。このままでいいのだろうか?」と現状に違和感を抱くようになり、16年勤めた会社を退社。2019年に世界一周の旅を決意します。それは、幸福度の高い国を中心に27か国をめぐり、「幸福度と教育」の関係をリサーチする、というテーマを掲げた旅でした。

「本にはいろんな解決策が書いてあるので、何かに悩んだり行き詰まったりしたときに集中的に読む」という堂原さんは、世界一周に出る前にもたくさんの本を読んだそうです。そして帰国後に浮かび上がってきた課題を解決するためにも、さらに読書を重ねました。

そこで今回は、「世界を知るための本」をテーマに5冊を選んでいただきました。

堂原さんを世界へと突き動かした5冊とは。そして世界一周の旅から何を学び、どこへ向かうのか。日本と世界をつなぐ堂原さんが見つめる先を紐解いていきます

選者
株式会社WTOC(ウトック)代表取締役
堂原有美

愛知県出身。広告代理店を退職後、世界27か国をめぐり「幸福度と教育」の関係をリサーチ。2020年に「教室から世界一周!」プロジェクトを設立し、世界をつなぐ活動を行う。(HPTwitterfacebookInstagram


須崎條子

この記事のライター/須崎條子(エディマート)

エディマートに所属し、編集・マネジメント業務を担当。大学在学中に17か国をめぐる地球一周の船旅へ。「旅」「海外」のキーワードに目がなく、世界一周した堂原さんに羨望の念を抱く。

1.会社を辞めて世界一周の旅を計画

広告代理店の仕事に没頭しながらも、少しずつ違和感を覚えていった堂原さん。

「地域や社会のために企画を考えるのはすごく楽しくて、やりがいを感じていました。でも、ビジネスとして利益を追求することには興味がもてなくて…。次第にそのギャップが大きくなっていきました」と話します。
葛藤の末、思い切って次のステップに進むことを決断し、16年間勤めた会社を退社することに。

もともと「世界」や「幸福」に興味があったことから、堂原さんはかつて訪れたフィンランドのことを思い出します。フィンランドは、国連が発表している「世界幸福度ランキング」で毎年1位になる国。当時、現地の人々に「あなたにとって幸せとは何ですか?」と聞いて回ったのだとか。

すると、ほとんどの人が共通して「豊かな教育を受けられたこと」と回答。「子どもの個性を伸ばす教育」が幸福度に関わっていると考えた堂原さんは、「ほかの国でも教育がよければ幸福度は高いのか?」「人を幸福にする要素はほかにもあるのだろうか」と疑問を抱きはじめ、幸福を探すための世界一周を決めました

『自分の仕事をつくる旅(ディスカバー/成瀬勇輝)』 

世界一周するにあたって、「幸せと教育の相関関係を探る」というテーマを設定した堂原さん。旅の計画を進めるなかでまず最初に参考にしたのが、『自分の仕事をつくる旅(ディスカバー/成瀬勇輝)』だったと話します。

この本は「新しい旅のあり方」として、ただ観光するのではなく、自分が興味のあることやチャレンジしたいことをする「テーマのある旅」を提案キャリアにつながる旅のノウハウや、準備から帰国までに必要なステップが詳しく解説されています。

実際に「テーマのある旅」を経験して、キャリアにつなげた11組の旅人も本のなかで紹介されていて、堂原さんは気になった方たちに連絡を取り、直接話を聞きに行ったそうです。

「誰に相談しても、世界一周した人たちってみんな『絶対行け!』って言うから、聞いたら終わりです(笑)」

旅の経験者から背中を押された堂原さんは、持ち物の準備なども本に書かれてある通りにすべて行うほど、この本を活用。

「書かれていること、ほとんどその通りにやったんです。めちゃくちゃ読み込みました。『旅のテーマを決める』『企画書の制作』『人に対して発表する』『ネットメディアの準備をする』とか、もうほんとに全部!」

日経doorsで連載していた「元広告プロデューサー堂原有美の幸福国を巡る世界一周の旅」も、本に書かれてある通りに実行して、掲載につながったものだとか。堂原さんにとって、世界一周の旅には欠かせなかったマニュアル本のような一冊といってもいいかもしれません。新しい仕事につながる旅がしたいという方には、ぴったりな本ではないでしょうか。

自分の仕事をつくる旅

¥1,650
発行/ディスカバー
著者/成瀬勇輝

普段から実用的なビジネス本や自己啓発本を読むという堂原さん。「とにかく頭に入れたいので、印をつけるようにしています。線も引くし、付せんも貼るし、付せんがなければ折るし(笑)」と、本当にどの本もくたくたになるまで読み込まれている様子がうかがえました。

2.幸福度ランキング上位の国を訪れる

「幸せと教育の相関関係を探る旅」というテーマを掲げた堂原さん。どの国へ行くかを決めるときに読んだという、2冊の本を教えていただきました。

『世界幸福度ランキング 上位13ヵ国を旅してわかったこと(集英社/マイケ・ファン・デン・ボーム)』

「まさに私がやろうとしていたこととかぶってたんです。『同じことをやっている人が世界にいるんだ』って思うとすごく嬉しくて。速攻買って読みました」と、堂原さんが紹介してくれたのは、『世界幸福度ランキング 上位13ヵ国を旅してわかったこと(集英社/マイケ・ファン・デン・ボーム)』。

2015年にドイツでベストセラーとなったこの本は、国連による世界幸福度ランキング下位のドイツに疑問をもったドイツ人女性が書いた一冊。アイスランドやノルウェーなど北欧の国々、コスタリカやパナマなど中米の国々といった、ランキング上位13か国の300人にインタビューし、「幸福とは何か」を探っていきます

「これを読んで、幸せの価値観っていろいろあるんだなっていうのがわかった」という堂原さんは、著者のマイケ・ファン・デン・ボーム氏にも連絡を取り、世界一周中に会いに行ったそうです。「この本には教育については特にふれられてなくて。幸福と教育が関係しているという私の話にすごく興味をもってくれた」と当時のことを振り返ります。

「彼女と話して、幸福はその人が決めるものだという考え方に共感しました。旅中、現地の人にインタビューするなかで出た結論と同じだったからです。そして、『この考えをぜひ広めたい』と伝えたら、逆に『どうやってやるの?』とすごく興味を持ってくださって。『応援したい』『一緒にできるといいですね』と嬉しい言葉をいただきました」

国連が発表した「世界幸福度ランキング」2021年版では、フィンランドが4年連続で1位。2位デンマーク、3位スイスと続き、8位まで欧州が占めています。そして、日本は56位と毎年低迷続き。日本が幸福を感じるには何が足りないのでしょうか。

「幸せって何だろう?」と悩む人は、この本で幸福国に住む人々の価値観を知って、幸せの考え方を見つめ直してみるのもいいかもしれません。

世界幸福度ランキング 上位13ヵ国を旅してわかったこと

¥2,200
発行/集英社
著者/マイケ・ファン・デン・ボーム

『世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論(いろは出版/永崎裕麻)』

本から新しい発見があったと話す堂原さんは、次に『世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論(いろは出版/永崎裕麻)』を紹介してくれました。

「幸福度ランキングって実はいくつかあって。国連が発表する世界幸福度ランキングでは、ほとんど北欧の国が上位を占めていますが、「世界幸福度調査2018」では、フィジーが1位になっていたんですフィリピンやベトナム、コロンビアなど途上国や危険な国が上位に入っていることにびっくりしました
※世界幸福度調査2018…米国の世論調査会社ギャラップ・インターナショナルとWINによる共同調査

こちらの本は、世界各国をめぐった末、フィジーに移住した日本人の方が書かれたもの。生活のなかで発見した「人生を豊かにするフィジー人の4つの習慣」について、エピソードをまじえながら紹介しています。

“やさしいジャイアン”っていう表現が出てくるんですけど、つまりシェア文化みたいなもので。自分のTシャツをなぜかフィジーの人が勝手に着てたっていうエピソードとか、そんなクレイジー体験がいっぱい載ってます(笑)

堂原さんは世界一周の旅で著者の永崎裕麻さんに会うため、フィジーにも行ったそうです。そこで、初対面の人でも家に上げてしまうようなフィジー人の無防備感に衝撃を受け、不思議とおもしろさも感じたのだとか。

「私がバスでチャージがなくなっちゃったときに、なぜか近くにいたフィジー人が代わりに払ってくれたんです。日本では信じがたいというか…。世界一周に行く前に、“幸福には自由な社会制度と個を尊重する教育が必要”という仮説を立てていたんです。その仮説を検証する旅にしようと思っていたんですけど、フィジーは決して社会制度や教育に特徴がある国ではないので、仮説は崩れてしまいましたね

一冊の本から知った「世界の価値観の違い」に、堂原さんは衝撃を受けます。

「国連の世界幸福度ランキングは、“個や自由”がある北欧の国が上位。フィジーが1位になった世界幸福度調査では、“家族とのつながり”を大切にする国が上位なんです。世界一周の旅を通して、この2つが重要だと肌で感じました。日本にはどちらも足りてませんよね?

3.あらためて世界を見つめ直すために

幸福国をめぐり、9か月にわたる世界一周の旅を終え、堂原さんは日本の経済、教育、政治など、さまざまなことに対して課題意識を感じて帰国しました。

「自分には何ができるのだろう」と考えたときに、日本と世界をちゃんと見つめたいという思いから、『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成(ニューズピックス/安宅和人)』をはじめ、日本や世界と向き合うための本をいろいろと読み漁ったそうです。

『FACTFULNESS(日経BP/ハンス・ロスリングほか)』

「日本をなんとかしないと!」という危機感を抱いた堂原さんは、何をすべきか模索するなかで一冊の本に出会います。それが、『FACTFULNESS(日経BP/ハンス・ロスリングほか)』でした。

FACTFULNESS(ファクトフルネス)は、「データを基に世界を正しく見る習慣」を意味する造語。世界に蔓延する間違った認識や思い込みを克服するよう、その習慣を身につけることを提唱しています。

この本では、感染症、貧困、人口問題、エネルギー、教育など、幅広い分野で世界の最新事情を紹介。私たちが“FACTFULNESS”に考える方法を教えてくれる一冊です。世界で100万部を超えるベストセラーとなりました。

「世界の現状を知ることってすごく重要。そして、世界の人に正しい情報を伝えるべきですし、みんなが知らなければ世界はよくなっていかないと思うんです

著者の一人であるハンス・ロスリング氏がつくった「ドル・ストリート(Dollar Street)」というWEBサイトが本書で紹介されています。このサイトは、世界中のさまざまな人たちの生活を、写真や動画を通して所得別に見ることができるというもの。堂原さんが手掛ける「教室から世界一周!」プロジェクトはここから着想を得たと教えてくれました。

「このサイトはいろんな国を比べて見られるのがほんとにおもしろくて、大好きなんです!所得が同じくらいだと、大体どの国も絵が一緒なんですよ。だから所得が上がるにつれて、同じように変化していく。こうやっていろんな国の生活を見ることは子どもたちのためにもなるだろうし、見せたいなって思ったのが、『教室から世界一周!』の原点でもあります。もちろん、ほかにもはじめた理由はありますが、ビジュアル的にはこのサイトがヒントになりました」

世界を見てきた堂原さんは、帰国後も読書を重ね、たくさんのことをインプットしながらやるべきことをイメージし、しっかりと形にしていきました。「世界のために事実を訴え続けたハンス氏は、私にとって憧れの存在。そんな人でありたいと思っています」と、熱を帯びた言葉があふれます。

FACTFULNESS

¥1,980
発行/日経BP
著者/ハンス・ロスリングほか

『「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには(角川出版/出口治明)』

2020年に発売された『「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには(角川出版/出口治明)』は、「教える」「教育」を切り口にして、日本の抱える最重要課題に切り込んだ一冊。

大人が子どもに対してできることは、いろんなものや世界を見せることだ、という著者・出口治明氏の考え方は、堂原さんの教育論の根幹になっているのだとか。「教室から世界一周!」プロジェクトを通してやりたいことでもあると話します。

「この本のなかでとくに好きなのが、“尖った人”を生み出す、という部分。好きなことを徹底的に究めた“変態”を育て、大学を“変態コース”“偏差値コース”に分けるなどユニークな提案が出てきます。そうやって、一人ひとりが誇りをもってできることを認めてあげられたらいいと思います」

共感する堂原さんは、インプットする方法として本書で挙げられる“人・本・旅から学ぶ”にも、「まさに自分がそうだと思っている」とうなずきます。親、教師、上司など“先輩としての責任”をもち、教える立場にある人に、きっと響く一冊になるでしょう。

4.終わりに

広告プランナーから心機一転、世界一周の旅を果たし、「日本をなんとかしないと!」と問題意識をもって帰国した堂原さん。現在は、世界30か国以上の教室をオンラインでつなぎ、同世代の子どもたちが意見交換できる「教室から世界一周!」プロジェクトを起ち上げ、日々力を注いでいます。今年の6月には法人化をして、株式会社WTOCの代表取締役社長になられました。

旅のはじまりから、帰国後の新しいキャリアにつなげるまで、悩みや問題に直面するたびに本を求め、本から多くの知識やきっかけをもらい、行動に移してきたことがうかがえたのではないでしょうか。

堂原さんはプロジェクトを通して、「第二のグレタ・トゥンベリさんを日本から輩出する」という目標があり、授業ではプレゼンテーションやディスカッションを多く取り入れているようです。
※グレタ・トゥンベリ…ニューヨークで行われた国連気候行動サミットでの『怒りのスピーチ』で注目を浴びた、スウェーデンの環境活動家

多様性をもち、世界との垣根をもっと減らすことで、世界とつながりやすい社会になると思っています。そして個人が尊重され、自分の好きなことができる世の中になっていくといいですね。世界一周の旅で見てきた幸福国がそうだったように、“個を尊重できる教育・社会”が私の最終目的地。そこに向けて、『教室から世界一周!』の授業を続けていきたいです」

かわいらしい見た目とは裏腹に、パワフルな行動力がステキな堂原さん。本を通して、ものごとを実現させていく姿勢は見習いたいものです。近いうちに堂原さん自身も本を出版される予定で、現在執筆中なのだそう。どんな本になるのか楽しみですね!

気軽に海外へ行けない今だからこそ、「世界を知りたい」と思う方は、ぜひ今回紹介した本を手に取ってみてはいかがでしょう。読書体験が、未来への道しるべとなってくれるかもしれませんよ

 

写真=太田昌宏(スタジオアッシュ)/取材協力=FabCafe Nagoya

 

 

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MICHIKO SUZAKI

この記事の執筆者MICHIKO SUZAKIクリエイティブ・マネージャー

関西大学在学中、カンボジアの少年と出会ったことをきっかけに、無関心を卒業すべく17か国をめぐる地球一周の船旅に出る。知ることの大切さと伝えることの難しさを感じ、編集という仕事を志すことに。2009年エディマートにアルバイト入社し、4カ月後に正社員に。主にエリア情報誌(飛騨高山と伊勢志摩が得意!)や新聞広告、子ども向け新聞などの編集・ライター業務に携わる。なかでも映画関連の俳優・監督インタビューと、国内外問わずカメライターとしての旅取材経験多し。九州生まれ。

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