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2022.12.09 Fri

本の紹介

おおぶ文化交流の杜図書館の司書・小倉明美さんが選ぶ5冊の本│日本一の貸出冊数を達成した図書館の貸出数ベスト5は?

人生で特別な5冊を紹介してもらう連載企画「5冊の本」。

皆さんは、全国で最も多くの貸し出しが行われている図書館が愛知県大府市にあることをご存知でしたか?

その図書館というのが、「おおぶ文化交流の杜図書館」。2004年の株式会社図書館流通センターへの委託を経て、2014年に複合文化施設として開館しました。そして2015年度には、人口6万人~10万人未満の自治体で日本一の貸出冊数を達成する図書館に急成長したのです。

そこで今回は、いつもとはひと味違う「長きにわたり読み継がれる本」をテーマとし、おおぶ文化交流の杜図書館で累計貸出回数の多い5冊の本をご紹介します。

お話を伺ったのは、愛知県大府市・おおぶ文化交流の杜図書館の司書である小倉明美さん

図書館に勤める前は、大手書店チェーンで本の販売業務に携わっていたそうで、ご結婚を機に大府市へ移住。市が図書館を運営していた2003年に、臨時職員として働き始めました。今年で19年目になる小倉さんは現在、チーフという立場で運営に関する業務を担っています。

若者の読書離れが進む現代。「読書のおもしろさを多くの世代に伝えていきたい」という想いで働かれている司書さんの工夫や図書館の目指す姿についても教えていただきました。

取材
司書
小倉明美

愛知県・大府市にある「おおぶ文化交流の杜図書館」でチーフを務める。館長とともに会議に出席したり、人事や労務の役割を担ったりと業務責任者として図書館を運営している。(HP


水野史恵

この記事の取材担当/水野史恵(エディマート)

ディレクターとして編集や執筆の業務を担当。主に新聞記事や情報誌などを制作している。日常的に図書館を利用しており、おおぶ文化交流の杜図書館の取り組みにも興味津々。

1. 図書館の利用者数が増加した“ワケ”に迫る

おおぶ文化交流の杜図書館は、ホールやギャラリー、レストランなどを併設する複合文化施設として2014年に現在の場所で開館しました。

ワンフロア2700平方メートルの図書館内は、愛知県内でもトップクラスの広さ所蔵する本の冊数は、開架と閉架あわせて約41万冊にもなります。旧館の時の約25万冊から、5年あまりで40万冊まで増やしたのだとか。

「主な利用者層は30代から50代の女性で、次に60代以上の利用者が多いです。今後は、20代やティーン世代にもたくさん足を運んでもらいたいです」と小倉さんは話します。

さらにオフラインにとどまらず、「おおぶ文化交流の杜電子図書館」のサイトでは電子書籍の貸し出しも大府市在住者を対象に行っています。令和3年度時点で2442点の書籍を所蔵しており、そのうち99点は寄贈のもの。図書館に足を運ぶ時間がない人や、手軽に本を読みたい人にとって非常に便利なサービスです。

2015年以降6年連続日本一の貸出冊数を達成しているおおぶ文化交流の杜図書館。

2021年度は、132万4380冊の貸出冊数を記録しました。この結果は、利用者1人あたり年間で14冊借りているという計算になります。

では日本一を獲った図書館は、一体どのような取り組みをしているのでしょうか。

設備を自動化して、貸し出しの効率化を図る

1つ目は、館内の設備を自動化していること。

自動閉架書庫の機械は、日本ファイリングの「オートライブ」を導入。オートライブでは17万5211冊もの書籍を管理しており、利用者から「この本を出してほしい」という要望があればカウンターバックにコンテナが自動的に運搬してくれます。

さらに、人の手を介さずに貸し出し作業ができる自動貸出機も館内に7台設置。稼働率は97%で、ほとんどの利用者が効率的な貸し出しに魅力を感じているのがわかります。

日本ファイリング「オートライブ」とは…?

膨大な書籍や資料の保管ができる自動化書庫。効率化を図った検索・出納システムにより、素早く書籍を提供することができる。入出庫作業やカウンター業務の負担が減ると、業界内で好評だ。

誰もが探しやすい棚づくりでリピーターを増やす

次に利用者が見やすい棚づくりをすること。広々としたワンフロアだからこそ、目線よりも低い棚を置くことが可能に。「読みたい本が上の位置にあって届かない…」という悩みを解決してくれます。

さらに図書館に入った正面のスペースには、マンガや健康、生活など内容別に集めた「別置コーナー」と呼ばれる棚も。目的に合った本が選びやすいため、開館当初は利用率がほぼ100パーセントでした。利用者が本を手に取りやすい棚づくりもリピーターの増加につながっています。

利用者と職員にやさしい図書館のシステムをつくる

3つ目は、返却棚を各所に配置すること。返却棚とは返却台車を棚代わりにしたもので、返却されたばかりの本をそのまま借りられる仕組みになっています。

職員にとって、返却された本を整理するのは大変な作業。利用者にとっても貸し出しが頻繁に行われる人気作品は、なるべく早めに借りたいはず。両者のメリットを叶えた返却棚は、常連をはじめとする多くの利用者が活用しています

返却棚には貸し出しから戻ってきたばかりの書籍がずらり

市や独自のイベントでワクワクを届ける

取り組みの4つ目は本の特集を組んだり、イベントを開催したりすること。現在、おおぶ文化交流の杜図書館には館長と小倉さん含めて31名の職員が在籍中。

館内の一角には、話題の有名人や流行り物に付随する本を集めた特集コーナーがあります。テーマは3ヶ月に1回の周期で変わっていくため、訪れる度に新しいテーマになっているのもおもしろいポイントです。

イベントも充実しており、児童書コーナーでのクイズラリーやホールでの講演会、図書館の2大イベントである「図書館こどもまつり」「市民文化交流イベント」などを開催しています。

「SDGsについての対談風な講演会や地元のアナウンサーによる読み聞かせイベント、伝統芸能である”能”の舞台など、いろいろな催しを行っているんです」と小倉さん。過去の「図書館こどもまつり」では、2日間で約3200人が来館した年も。複合文化施設という特長を活かした取り組みも、利用率向上の理由といえるでしょう。

2.ファン層が厚い人気作家の小説がランクイン

今回は「長きにわたり読み継がれる本」をテーマに、図書館が所蔵する約41万冊の中から貸出冊数の多い5冊を小倉さんにピックアップしてもらいました。

「初めて統計を取ったので、私たちも興味深かったです」と小倉さん。

まずは一般書の3冊から。ランクインした作品の共通点は、映像化されていること話題性があることでした。多くの利用者がテレビやSNS、新聞の広告欄などから情報を得ている傾向が表れています。

『火花(文藝春秋/又吉 直樹)』

一般書で最も貸出回数が多かったのが『火花』。その回数は開館から1320回で、所蔵数はなんと16冊にもおよびます。

おおぶ文化交流の杜図書館は、貸出予約の数が多い書籍は所蔵数が増えていく仕組みだそう。そのため、所蔵数が多い書籍はそれだけ貸出数も予約数も多いことを読み取ることができます。

『火花』は、熱海の花火大会で運命的な出会いをした売れない芸人・徳永と先輩芸人・神谷の物語。徳永は神谷のお笑いに対する熱い想いに感銘を受け、いつしか憧れを抱くようになります。その後、徳永は神谷の伝記を書くことを条件に弟子入り。“お笑いで天下を取る”という夢を追いかける2人が「お笑いとは何か」「人間とは何か」を追求していく一作。

この作品は、お笑い芸人である又吉直樹さんによる作品、さらに芸人初の芥川賞を受賞した作品として話題を呼びました。Netflixシリーズでのドラマ化や、2017年には徳永役・菅田将暉さん、神谷役・桐谷健太さんの共演で映画化もされました。

映画の公開後、貸出数はさらに勢いを増したのだとか。“映像化”と“話題性”は、図書館においても人気を左右する大きなポイントだということがうかがえます。

火花

¥660
発行/文藝春秋
著者/又吉直樹

『蜜蜂と遠雷(幻冬舎刊/恩田陸)』

一般書の第二位は、『夜のピクニック』をはじめとした数々のベストセラーを残している恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』。直木賞と本屋大賞のダブル受賞した作品でもあります。こちらの貸し出し回数は、649回という結果になりました。

恩田陸さんは根強い人気のある作家さんですからね」と小倉さんは話します。恩田さんは「ノスタルジアの魔術師」と呼ばれており、「どこか懐かしくて切ない」と感じさせる作風が特徴的。作品のジャンルはミステリーや青春、コメディなど多岐にわたります。

『蜜蜂と遠雷』は、国際ピアノコンクールに挑む4名の天才ピアニストの挑戦や成長を描いた長編小説。2019年に、俳優の松岡茉優さんや松坂桃李さんらによって映画化もされています。

蜜蜂と遠雷(上)

¥869
発行/幻冬舎
著者/恩田陸

 

蜜蜂と遠雷(下)

¥869
発行/幻冬舎
著者/恩田陸

 

『手紙(毎日新聞社/東野圭吾)』

ミステリーやファンタジーなどの人気作品を生み出してきた東野圭吾さんの『手紙』もランクイン。貸出回数は、480回でした。東野さんはサラリーマン時代に大府市に住んでいたそうで、「利用者の方も何かの縁を感じているのかもしれません」と小倉さん。

『手紙』は、殺人犯を家族に持つ加害者家族の姿を描いたストーリーで、ドラマ化・舞台化もされています。

ミステリーに終わらず、社会的・科学的観点から物語を楽しめるのも東野さんの魅力のひとつ。小倉さんは「『容疑者Xの献身』の方が貸出回数は多いと思っていました」と意外な結果に驚いていました。

手紙

¥792
発行/文藝春秋
著者/東野圭吾

4.親から子へ読み継がれる名作絵本がランクイン

続いては、児童書のご紹介です。長く読み継がれる本の特徴は、世代を超えて人気のあるロングセラー作品だということ。さらに、すべての物語にはある“食べ物”が登場しています。

「やはりロングセラーの絵本は、親御さんが『面白いから子どもにも読んでほしい』と思うのではないでしょうか。また、“食べ物”や“食べること”って子どもにとって興味が湧くもの。読んでいてすごく楽しい気持ちになりますよね。私もお気に入りの絵本は、今でも家にありますよ」。

小倉さんも納得のラインナップは、子どもの頃に読んだ記憶が残っている人も多いはずです。

『ぐりとぐら(福音館書店/作:なかがわりえこ、絵:おおむらゆりこ)』

言わずと知れた絵本界の名作『ぐりとぐら』が第1位に。貸出回数は、1321回にもなります。所蔵数は16冊で、大型絵本の貸し出しも可能

7シリーズある『ぐりとぐら』の最初の物語は、1967年の出版以来、絵本部門で2位の累計発行部数を記録しています。さらに英語や中国語、フランス語など世界各国の言葉でも訳されていることからも、長年にわたり世界中で愛されていることがわかります。

食べることが大好きな野ネズミ・ぐりとぐらが作る大きなカステラが印象的な作品。ふわふわのカステラを動物たちが囲んで食べるシーンに、子どもたちもワクワクするに違いありません。お父さんやお母さんも子どもに読み聞かせをしながら、懐かしい記憶が蘇ってくることでしょう。

ぐりとぐら

¥990
発行/福音館書店
著者/なかがわ りえこ イラスト/おおむら ゆりこ 

『バムとケロのにちようび(文溪堂/島田 ゆか)』

2番目に多く貸し出されていたのが『バムとケロのにちようび』で1259回

「バムとケロ」シリーズは、しっかり者の犬・バムといたずらっ子のカエル・ケロの日常を描いた人気作品です。

本作は、ある雨の日曜日のお話。お部屋をきれいに片づけて、お菓子をいっぱい作って本を読もうと思ったバムでしたが、雨の中外で遊んでいた泥だらけのケロがやってきます。二人のかわいらしいやりとりに大人も癒されること間違いありません。

また、作中には、山盛りのドーナツを作って食べるシーンが出てきます。インパクトのあるドーナツに、子どもたちもびっくり。大型絵本で読めば、より迫力が感じられそうです。

バムとケロのにちようび

¥1,650
発行/文溪堂
著者/島田ゆか

さらに、貸出冊数が多い児童書の3位から5位も教えていただきました。

3つの作品にも、子どもたちの興味関心を惹く食べ物”が物語の中心となっています。

3位である『はらぺこあおむし』は、リンゴやチョコレートなどを青虫が食べていきます。4位の『しろくまちゃんのほっとけーき』ではホットケーキ、そして5位の『からすのパンやさん』では84種類のパンが登場。

絵本の世界の食べ物を実際に食べられるお店があったり、自宅で作れるレシピも出ていたりと子どもだけではなく、大人も夢中になっています。

5.今後における図書館の“目指す姿”

取材の最後に、おおぶ文化交流の杜図書館が目指す姿についてお伺いしました。

「さらに“居心地の良い図書館”になっていければと思います。現在、約65パーセントの大府市の皆さんに図書館カードを登録していただいています。残りの35パーセントの方々にも利用してもらうのが目標。特に中高生の利用者が少ないので、その世代に来てもらえるよう学校連携なども実施していきたいです」。

続けて「高齢者や障がい者の方々にもやさしい図書館でありたいです。読書は誰もが好奇心を惹きつけられると同時に、いろいろなことを知れるのが魅力だと思うんです。インターネットでも情報は得られるかもしれませんが、実際に興味の湧く本を手に取って読んでみるのもおもしろ味がありますよ。この魅力を多くの人に感じてもらえたら、私としてもうれしいです」と笑顔で話してくれました。

日本一の貸出冊数を達成した背景にあったのは、司書さんたちの利用者目線に立った工夫やイベントなど、図書館の枠を超えた取り組みでした。

今回ご紹介した本を含め、自分自身の好奇心を刺激する本を探しに図書館へ訪れてみてはいかがでしょうか。

 

取材・執筆=水野史恵、織茂麗(エディマート)

写真=ふるさとあやの

取材協力=おおぶ文化交流の杜図書館

 

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