2021.06.07 Mon
名古屋おもてなし武将隊®・徳川家康が選ぶ5冊の本┃現代にも通じる「サムライ精神を知るための本」
人生で特別な5冊を紹介してもらう連載企画「5冊の本」。
今回お話を伺ったのは、名古屋城で迫力のある演武により人気を博す「名古屋おもてなし武将隊®」の一人、徳川家康さまです。
名古屋にゆかりのある武将6人と陣笠4人で結成された「名古屋おもてなし武将隊」は、名古屋の魅力はもとより日本人ならではの“おもてなしの心”とSAMURAIカルチャーを世界へ発信し続けています。
そんな家康さまに今回紹介していただく本は、「サムライ」をテーマに選んだ5冊。
戦国時代を生きた徳川家康は、読書を通して歴史に学び、天下統一を成したといわれるほど。いっぽう現代に甦った家康さまも、英語が堪能で、博識な読書家です。選んでいただいた5冊の本を通して、家康さまの描く「サムライ」像に迫ります。
この記事のライター/須崎條子(エディマート) エディマートに所属し、編集・マネジメント業務を担当。名古屋おもてなし武将隊の結成初期の頃から、毎年のようにガイドブックなどで武将隊や名古屋城の取材に携わり、歴史の魅力にハマる。 |
目次
1.現代の「サムライ」という概念に出会う
戦国時代を生きた400年前の徳川家康が読書家だったことはご存じでしょうか?加えて蔵書家でもあり、駿府城にあった私設図書室の蔵書は約1万冊にも及んだとされ、政治から歴史、法律に関する書物まで幅広く読んでいたとか。
「その時代にわしほど書を集めたものはおらんぞ。ゆえに数多く読んだということもあるが、なかでも気に入りしものは、幾度も幾度も同じ書を読んで学んでおったのう」と、読書の記憶を振り返る家康さま。
戦の時には、兵法書として有名な『孫子』を読み、実践することで勝利したことも。独断を避けるように心がけていたという家康さま。それは、自分自身で考えられることはわずか数十年であるのに対し、歴史書を読み解くことで数千年の知恵が得られるから。だからこそ、大きな決断をする際は情報入手のため、必ず書に目を通していたそうです。
では、現代に甦った家康さまは、普段どんな時に本を読まれているのでしょうか。
「新しいことを成す時には、それ相応の知識が必要だとわしは思う。ゆえに“学ぶ入口”として書を手にすることが多い。それは400年前とまったく変わらぬことじゃな。わしは現代に甦ってからもいろんな書物を読んでおるが、なかでも武士道に関する書物は多く読んだのう。武士道とはわれらのことじゃと思っておったが違ったんじゃ」
もちろん武士やサムライは、家康さまがかつて生きた時代の人の身分を指す言葉ですが、「武士道」や「サムライ精神」という概念は、家康さまが現代に甦って初めて出会ったものだったのです。
改めて今の世を知るために、家康さまは『武士道 日本人であることの誇り(成甲書房/岬龍一郎)』という本から武士道を学びました。
『武士道 日本人であることの誇り(成甲書房/岬龍一郎)』
武士道といえば、新渡戸稲造が欧米に向けて日本人の価値観や道徳観を紹介するために、英文で書いた『武士道』という本が有名です。各国で訳され世界的ベストセラーとなりました。
「そもそも武士道は定義が曖昧でのう。何百年も受け継がれてきたかのように現世の者たちはとらえるじゃろうが、そうではない。新渡戸稲造が書いた『武士道』が異国であまりに売れて、それが世に広まった。つまり、武士道の定義は新渡戸稲造のさじ加減次第なんじゃ(笑)」と家康さまは説明します。
「日の本(日本)が価値あるものとして重んじておるのは、どれも異国にて称賛を浴びて戻ってきたもの。そのひとつが武士道なんじゃ。相撲や能・狂言、歌舞伎、日本語もそうじゃの」
世界の人々が考えるいわゆる“日本”というものを、今の日本人が学び直し続けているということがわかったそうです。
そんな家康さまが今回紹介してくれたのが、『武士道 日本人であることの誇り』です。こちらは、新渡戸稲造の『武士道』を底本とし、あらゆる武士道論を記した一冊。現代的解釈を付け加え、新たな時代の「新・武士道」が実例とともにわかりやすく紹介されています。
家康さまが本の中で特に注目したのが、「高き身分の者にともなう義務(ノブレス・オブリージュ)」の部分。
「ノブレス・オブリージュとは騎士道の基本的精神で、自分の命を賭けて周りの者たちを守るために課していたもの。上に立つ者は、権力も財力もあるが、私腹を肥やさず、周りの者を助け守るということを忘れてはいかん、と常に心で反復しておったわけじゃ。日の本の武士は、そういった精神を持っておると書かれておった。それが嬉しい。なぜなら、わしはこのノブレス・オブリージュの精神を武士たちに与えたかったからじゃ」
かつて徳川家康が求めた理想の教え「権あるものは禄うすく、禄あるものは権うすく」。
「権力を持っている者は、財を持ってはいけない。財を持っている者は、権力を持ってはいけない」という、まさに徳川幕府の基本とされていた方針が本の中でも紹介されています。
「貧乏じゃったんじゃ武士は。だけども高貴な精神が保たれていたんじゃ。特権階級であったわけではなく、その精神こそが広く行き渡っていたということ。それを嬉しく思うぞ」
数ある武士道の本の中でもこの本を選んだのは、現代の人でも理解できる実例が記されているから。「武士道の解釈だけではなく、現代ではこのような場合にはこの精神が活用される、ということまで書いてあるのじゃ」と教えてくれました。
日本が世界に誇りうる「武士道の精神」。私たち日本人の心に根強く残っているはずのその高貴な精神を、この本をきっかけに今一度見つめ直すのも良いかもしれません。
¥1,760
発行/成甲書房
著者/岬龍一郎
『読むだけですっきりわかる 日本史(宝島社文庫/後藤武士)』
「これを読んでわしは考え方が変わったんじゃ。こういった何気ないことで変わるのはおもしろいことじゃな」と家康さまが手に取ったのは、『読むだけですっきりわかる 日本史(宝島社文庫/後藤武士)』。
旧石器時代から現代までの日本の歴史を、一冊で完全網羅。歴史の流れがわかりやすく書かれています。教科書ではあまり取り上げられない意外なエピソードも紹介されており、漫画のようにスラスラと読める、子どもから大人まで楽しめる本になっています。
「歴史を伝えるのに一番大切なのは、出来事の前後なんじゃ。“こういう理由で起こり、起こった後にこうなった”、ということがわかりやすく紐解かれておるでな。つるりと読めるところが最大の魅力であるとわしは思うぞ」
ものごとを説明するには、前後を補足することが内容を語る上で大切。そのことがより理解を深めるのだと、この本で気がついたと話します。
名古屋おもてなし武将隊は、歴史の語り部でもあります。家康さま自身、どのように伝えればよいのかを常に試行錯誤されているとのこと。この本が大きな学びになったと教えてくれました。
ちなみに家康さまがこの本で最も感銘を受けたのは、やはり江戸時代の部分でした。
「日の本の歴史の中で長きに渡る平和期間は江戸時代じゃな。わしが天下泰平を築き、その礎が磐石であったことが、結果としてこの書物に載っておる。これは感銘を受けたのう」
264年間も続いた江戸時代はひとことでは語れません。普段はスラスラと本を読まれる家康さまも、ご自身のことが書かれているところは熟読されたと嬉しそうに話します。
現在、そして未来の社会を見つめる上で、歴史を断片的ではなくひとつのストーリーとして振り返ってみてはいかがでしょうか。
¥524
発行/宝島社
著者/後藤武士
『日本人の心を伝える 思いやりの日本語(青春新書インテリジェンス/山下景子)』
『日本人の心を伝える 思いやりの日本語(青春新書インテリジェンス/山下景子)』は、相手を思いやり、相手への心配りを大切にしてきた言葉の語源や魅力を、わかりやすく解説している一冊。普段何気なく使っている言葉の中でも日本人が大切にしてきた「思いやりの心」を伝える言葉が集められています。
「武士道」「サムライ精神」というものに興味を抱く家康さまは、「武士とは何か?」と考え、さまざまな本を読みふけっていた時に見つけたのがこの本だそう。戦のない世の中になり、武士やサムライといった身分はなくなりましたが、現代でも「武士道」や「サムライ精神」というものは残っています。
「日本語が残したんじゃ。刀がなくても武士であるということがわかったという記述はいろいろ残されておる。なぜわかるかというと、それは挙措(きょそ/立ち居振る舞い)と言葉じゃ」
同じ身なりをしていても違いが出るのは、言葉だといいます。それがわかるのが、『日本人の心を伝える 思いやりの日本語』という本。
例えば本のタイトルにもある「思いやり」。「思い」を「遣る」という言葉は、自分自身の思いを伝えるだけではなく、伝えられた相手が得をする、相手に配慮する言い回しです。そのような言葉がたくさん武士の精神の中にあると家康さまは話します。
「なるほど。“もののふ(武士)”とは形や姿にあらず。まさに相手を思いやることができる精神から放たれる言の葉(ことのは)である」
この本を読んで、家康さまは思いを巡らせていた「武士とは何か?」の答えにたどり着きます。武士とは言葉。日本語の中に武士が生き続けている。そのことをこの本が教えてくれたのだそうです。
「われら名古屋おもてなし武将隊が最も武器といたすのは、本当に心の底から思い、出てくる言の葉。それ以上に大切な語るべきことはないのではないかと思うのじゃ」
さまざまな思いが込められ生まれた美しい言葉は、今でもたくさん残っています。何気なく使っていた言葉の深い意味を理解すると、より強く相手の気持ちを考えて言葉を使うことができそうですね。
¥803
発行/青春出版社
著者/山下景子
2.歴史を通して普遍的な物語を描いた一冊
「わしのことが嫌いな歴史小説家が書いた書じゃ」と笑いながら、家康さまが紹介してくれたのは、『故郷忘じがたく候(文春文庫/司馬遼太郎)』でした。
『故郷忘じがたく候(文春文庫/司馬遼太郎)』
この本は、司馬遼太郎が書いた3編からなる短編集。
16世紀の朝鮮の役で日本の薩摩へ陶器の技術を手に入れるために拉致された朝鮮の民の子孫の運命を描いた表題作「故郷忘じがたく候」。ほか、明治に奥州に遠征した官軍の悲惨な結末を描く「斬殺」と、細川ガラシャの薄幸の生涯を描く「胡桃に酒」が収録されています。
「わしはこれを読んで涙を流してな」
表題作「故郷忘じがたく候」で描かれているのは、豊臣秀吉の朝鮮の役で薩摩軍により日本へ拉致された数十人の朝鮮の民。以来400年、異国にいても朝鮮の民としての誇りを忘れないでいる、故郷を思い起こさせる山村に生き続けた子孫たちの物語です。
「ふと見上げる故郷の山に似た景色を見た時の、あの何とも言えぬ気持ちが、この作者はよくわかるんじゃな。わしも三河の山奥に行くと自然と涙を流してしまうことがある。そういう風景は誰にでもあり、故郷を忘れるのは難しいということじゃ」
歴史を通して普遍的なことを伝える作者に対して「この者は見事じゃ。わしのことが嫌いじゃけども」と称える家康さま。
また「胡桃に酒」では、明智光秀の娘・玉姫(細川ガラシャ)と細川忠興の物語が描かれます。
「たとえお互いが好き合っていてもうまくいかないことがあると、わしは純粋に恋愛のことで勉強になったんじゃ(笑)。これはもののふであるからこそ、うまくいかなかった恋の話じゃな」
家康さまが涙を流したこの小説は、どれも武士に関する物語です。武士という責務が強大だった時代。武士であることがゆえに大きく人生が揺れ動かされてしまう哀しみの歴史を、司馬遼太郎が描く物語を通してぜひ感じてみてください。
¥627
発行/文藝春秋
著者/司馬遼太郎
3.徳川家康があこがれる本物の武士
「わしが今いちばん会いたいのが、この者じゃな」
家康さまがあこがれていると話すのは、電気自動車や宇宙事業、太陽光発電などさまざまな事業を立ち上げ、それらをすべてマネジメントする実業家・イーロン・マスク。彼に関する著書を最後に紹介してくれました。
『イーロン・マスク 世界をつくり変える男(ダイヤモンド社/竹内一正)』
『イーロン・マスク 世界をつくり変える男(ダイヤモンド社/竹内一正)』という本では、世界を驚かせ続け、壮大な夢を追い続ける実業家・イーロン・マスクの破壊的な実行力を生み出す14のルールを紹介しています。
「電気自動車を1億台普及させる」ということに、家康さまは愕然としたそうです。
「この者は、自社のクルマが1台も売れなくてもいいんじゃ。電気自動車というものが普及すればいいと本気で思っておる。おのが自身のことは放っておいて、みながやりたいことができる土壌をつくる。共有することによって得られるものが多いという考えじゃ」
ほとんどの経営者が自社利益を第一に考えるところ、イーロンはもっと壮大なスケールでものごとを考え実行する実業家。GoogleやFacebook、Amazonなどの名だたる企業と同じで、自分の利益よりも、他者の利益を優先する“利他の精神”があることが、最大の特徴だと家康さまは語ります。
400年前に徳川家康が残した名言「最も多くの人間を喜ばせたものが、最も大きく栄える」。家康さまはこの言葉通りの行動で、江戸の町を大都市へと成長させました。
「わしが致したことも同じ。じゃが、わしの考えは狭かったし小さかった。この者がやることはわしの数十倍も規模が大きい。そしてより多くの命を守るであろう」
自分も世界をつくり変えたつもりだったと語る家康さま。しかし、イーロンは宇宙まで巻き込んで実行している唯一の人だと、家康さまは目を輝かせます。
「普通は何かにとらわれるのじゃ。自分の利益や周りの状況、いろいろなことに。もちろんこの者も失敗を重ねておる。しかしながら、最後には実現しとる。だから夢を語る規模もケタ違いじゃ」
そして、彼こそが現代の武士、サムライだという家康さま。
「真の“もののふ”はこの者である。生き方が“もののふ”じゃ。未来は明るいものであると勇気づけられる。自分がしたいと思った中のひとつでも成すことができれば、目の前の景色は変わるであろう」
周りにいる人や社会に喜んでもらえることをすることによって、自分自身にも喜びが返ってくる。家康さまやイーロンのような考え方をする人が増えれば、明るい未来が待っているのかもしれませんね。
¥1,540
発行/ダイヤモンド社
著者/竹内一正
4.終わりに
普段からよく本を読む家康さまにとって、読書とはどんなものなのでしょうか?
「書物は、わしが出会った中で“いちばん辛抱強い師”であるわな。わしが読みたいと思うことを必ず読ませてくれる。幾度でも同じことを教えてくれる。ずっと待っていてくれる」
本は学びたいと思った時に、必ず教えてくれる先生であるというのです。
「お主はまた同じことを聞いとるのか?とは言わんじゃろ(笑)」
名古屋おもてなし武将隊として10年以上も活躍しているにもかかわらず、常に試行錯誤を繰り返しているという家康さま。責務を果たすため、そして人々を喜ばせるため武士道を進み続けています。
絶えず読書で学ぶ姿勢からも、ただひたすらに純粋で実直な家康さまの人柄がうかがえます。
同じように、私たちの心にも根強く残っているはずの「サムライ精神」。
相手を思いやる気持ち、周りの人や社会を喜ばせる気持ちは、今のこの混沌とした時代だからこそ、より大切なものと言えるのではないでしょうか。
ぜひみなさんも家康さまが選ばれた本を手に取ってみてください。自分自身の心にも息づく武士道やサムライ精神を、新しい視点から見つめ直すきっかけになるかもしれません。
写真=太田昌宏(スタジオアッシュ)
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