2020.11.30 Mon
『スーパーで買える「肉」を最高においしく食べる100の方法』長田絢インタビュー/肉への愛と知識が詰まった一冊
新型コロナウイルスの影響で、“おうちごはん”を楽しむ人が増加した今。書店でも、多くのレシピ本が並ぶ光景を目にする機会が増加。そんななか、料理研究家として活躍する長田絢さんの初となる著作、『スーパーで買える「肉」を最高においしく食べる100の方法』(ダイヤモンド社)が刊行されました。
長田さんはかつて地域食材の卸の仕事に従事し、質の良い畜産物を探し求めていた経歴を持つ食のスペシャリスト。本書では専門家の立場から、“ふつうの肉”の旨味を最大限に引き出す100個のテクニックと、手軽に作れる肉料理レシピ48個が紹介されています。
「リーズナブルな肉でも調理法次第で、2倍、3倍のおいしさになる」とレクチャーする本書について、長田さんに話しを伺いました。
この記事のライター/水野史恵(エディマート) エディマートに所属し、編集や執筆の業務を担当。食べることが大好き、グルメ取材の経験も豊富なので、料理の腕前はそこそこ自信アリ(!?)。おうち時間を過ごすことが多くなり、台所に立つ機会が増えたことで「料理の腕前を磨きたい!」と向上心を抱く。 |
目次
1.すぐに忘れるレシピよりも、「一生使える料理テクニック」を紹介
料理家として「人の役に立つ本」をつくりたかった
テレビ番組や雑誌などのメディア活動をはじめ、講演会、セミナー、料理教室などを通し、これまで「食」に関する活動を幅広くされてきました。 そんな長田さんにとって、本作は初めての著作となりますね。 |
料理研究家として、本を出版することはひとつの夢。職業柄、料理に関する本はよく読みますし、同じように「私も人の役に立つ本をつくりたい…!」と思い続けて出版に結びつきました。 |
構想から5年かけて、出版に至ったとお聞きしました。 |
漠然と「本を出したい!」という気持ちだけはあったのですが、なかなかうまくいかず。過去には企画書を自分で作って、出版社へ売り込みへ行ったことも。しかし結果はダメで…。 そんななか、ダイヤモンド社の編集者さんとご縁があり、念願叶ったという感じです。 |
「人の役に立つ本」と言っても、定義が広くて難しいですよね。 料理関連の本でもレシピや豆知識、お店案内など、さまざまなジャンルがあります。本書のテーマは、どのように決めていったのでしょうか? |
テーマは編集者さんと相談を重ねながら決めていったのですが、今回は料理の「テクニック」に着目しています。それも、老若男女が家で手軽に活用できるような、身近な知識のみを集めることにしました。 |
普段から「料理教室」などで一般の方を接する機会が多い、長田さんならではの視点かもしれませんね! |
そうなんです!実際、レシピって一度読んだらすぐに忘れてしまうことって多くないですか?一方で料理の「テクニック」は、一度身につけば“経験“として蓄積されます。 例えば、「無料でもらえる牛脂を使えば、コクと旨味、香りがプラスされる」というテクニックを覚えておけば、スーパーへ行くと習慣的に牛脂を手に取る回数も増えますよね。 |
あっ!それは本の中ではじめに紹介されていたテクニックですね。たしかに、私もそれを知ったその日から、スーパーで牛肉を買うときは牛脂をカゴに入れるようになりました。 |
料理家として「一生使えるテクニックを知ってもらいたい!」という思いから、これまでの経験で得た知識をフル活用して紹介しています。 |
決めたのは、“ふつうの肉”が美味しくなるテクニック集
「肉」というジャンルに絞ったことには、何か理由があるのですか? |
肉が好きだからです(笑)。 |
わたしも大好きです(笑)。 |
もちろん、それだけではありません。わたしは過去に畜産家さんと料理人をつなぐ、卸の仕事をしていました。生産の現場を知っているからこそ、「畜産家さんが一生懸命つくったお肉を、美味しく食べてもらいたい」という思いも強かったです。 |
わ、わたしの好きより、はるかに愛情が深い…。 |
肉の“偏愛家”を名乗っていますからね(笑)。 それと、やっぱり肉は“絵力“もありますよね。フードコーディネーターとしての視点からも、数ある料理のなかで読者の目を引くのは「肉料理」かなと。 |
2.「一生美味しい肉を食べ続ける」ためのハウツーを身に着けて
畜産の現場をめぐって気づいた「美味しく食べる」ことの大切さ
長田さんは“狩猟免許も持つ料理研究家“としての肩書もありますよね。やはり、長田さんにとって「肉」には特別な思い入れがあるのでしょうか? |
そうですね。わたしは息子の出産をきっかけに食や健康に敏感になり、料理に関する勉強を独学ではじめました。 実際に料理をつくったり、いろんな料理本を読んだりするだけではどうしても我慢できず…。「現場が知りたい!」と、畜産家や農家へ直接足を運ぶようになったのもこの頃からですね。牛、豚、鶏はもちろん、羊、山羊、鴨、雉の現場や、ジビエ(鹿、猪)の狩猟現場にも足を運びました。 |
それほど、食への探究心が強かったのですね。 |
ひとり暮らし時代は、栄養補助食品でごはんを済ますくらいに無頓着だったんですけどね(笑)。 |
子どもを産むって、それほど人の価値観を変るのですね。母は偉大だ。 先ほどもおっしゃっていた日本全国の肉をレストランやホテルなどに販売する卸としての経験も含め、生産現場へ足を運ぶことは長田さんにとってどのような発見がありましたか? |
そうですね…。 例えば、水野さんは牛肉と聞くと何を思い浮かべますか? |
えっ。うーん。松阪牛や飛騨牛、神戸牛、近江牛とか…。 |
それらは、一般的に“ブランド牛”と呼ばれる高級な肉ですね。一方で、家庭でよく食べる肉にはラベルに「和牛」「国産牛」「輸入牛」と書かれた、“ふつうの肉”が圧倒的に多いと思います。 |
そうですね。スーパーで手に取る肉は、どれもそういった表記だったと思います。 |
わたしが生産の現場にふれて気づいたのは、そんな“ふつうの肉”にも畜産家の努力や工夫が詰まっているということ。生産者さんの苦労や、動物の命に感謝するためには、「美味しく食べる」ことが最大の敬意だと感じました。 |
“ふつうの肉”のおいしさを引き出す100のテクニック
これまでの説明から、長田さんがスーパーで買える肉を本書のテーマにしたのも納得ですね。流通量が多く、一般の方にとって身近だからこそ、「美味しく食べる」ことへの大切さを実感できる気がします。 |
肉って、「値段が高いから良い」という訳ではないんです。もちろん特別な日にブランド牛を食べるのも素敵ですけど、毎日食べたいのはスーパーで売っている“ふつうの肉”ですよね。 |
それは価格だけではないですよね。スーパーで売っている肉は調理もしやすいですし、料理のバリエーションに応えてくれるというか…。 |
そうなんです! どれだけリーズナブルな肉でも、調理法次第で2倍、3倍の美味しさになるのは間違いないです。 |
本書にある「スーパーで献立に悩んだら、こま切れ肉か切り落とし肉を買う」はまさにそれですね! こま切れ肉、切り落とし肉の違いを知っているからこそ、それぞれに適した料理で美味しくいただけます。 |
肉の名称による違いや、色ツヤの見分け方、調理する際のポイントなど、ちょっとした基本を理解するだけで劇的に味は変わります。「一生美味しい肉を食べ続けるために」という気持ちで、賢い肉の知識を身に着けてください♪ |
長田さんおすすめの肉料理レシピ
本書には「最高のハンバーグ」「王様トンカツ」「本物コンビーフ」など、王道の肉料理が多く紹介されています。簡単に作れそうな料理から、初心者には難しそうな料理までさまざまですが、特に思い入れのあるレシピはありますか? |
どれも一度は試してほしいレシピばかりで悩みますが…。 例えば、後半で紹介している「かたまり肉」の章で紹介しているレシピですかね。 |
まさに、さっきわたしが「初心者には難しそうな料理」と言ったのはこれです。本書でも長田さんが「牛もも肉10kg」を注文して驚かれるシーンがありましたが、かたまり肉を調理するのは難易度高そうですよね…。 |
かたまり肉を使った料理は手が込んでいるように見えて“寝かせる技術”を使えば誰でも簡単につくれちゃうんですよ。 紹介している「本物コンビーフ」も、下ごしらえして、冷蔵庫で寝かせて、鍋で煮るだけ。今は電気圧力鍋もありますし、煮ている間は他のことをするなど効率性も高い料理です。 |
本書では妻とケンカしてしまった男性が、結婚記念日に「本物コンビーフ」をつくって仲直りしていましたね。 |
まさに、「肉の大きさが、愛の大きさ」。 「難しそう…」と避けるのではなく、料理に苦手意識のある方でも一回チャレンジしてほしいレシピです! |
うっ…。まさにわたしのことだ。 あまりレパートリーがないせいか、どうしても「鶏のからあげ」「ハンバーグ」みたいな王道料理を選びがちになってしまうんですよね。 |
水野さんのように、「定番しか作れない…」と思っている方は多いのではないでしょうか? この本を読んで普段つくらない料理に挑戦してもらうのもうれしいですし、いつもの「定番料理」をアレンジしてみるのも楽しいと思いますよ! |
私は本を読んで「鶏の黄金比からあげ」を試してみました! 鶏肉の余分な脂・筋をとったり、冷蔵庫で寝かせたり、2度揚げしたり…。少しずつの手間で、サクサク感や味の染み具合がこんなにも変わるんですね。今度は味変のテクニックを使ってアレンジにも挑戦したいです! |
ありがとうございます!一度つくるだけで、美味しくするコツが身に付きますよね。「鶏のからあげ」は鶏料理の王道でありながら、調理を工夫するだけでいろんな魅力を発見できるんです。 本書にも書きましたが、「無限の可能性を秘めた料理」とはまさにです。 |
3.書籍の処女作だからこそ、すべてのこだわりを詰め込みました!
漫画家のユニ先生によるマンガでコミカルな世界観に
ユニ先生が描かれたマンガからも、長田さんの“肉愛“がかなり伝わってきますね(笑)。 |
主人公の名前を「長田絢」にしてもらって、かなり等身大に近い形のストーリーにしてもらいました(マンガを盛り上げるために、多少オーバーにはなっていますが…)。 |
マンガの世界だと、長田さんの家には「肉の貯蔵庫」がありますもんね(笑)。 |
ごめんなさい。さすがに「肉の貯蔵庫」は自宅にないです(笑)。 |
ユニ先生とのやり取りで、印象的なエピソードはありますか? |
わたしのイメージがユニ先生に伝わるように、調理のシーンでは実際に自分で肉を焼いている動画を撮影してお見せしたことも。マンガの仕上がりを確認すると、とても美味しそうに表現された料理の数々…。「さすがプロ!」と声に出して喜びましたね。 |
コラム執筆、レシピ考案、料理撮影のコーディネートなど、できることはすべてやる!
今回は作者として、はじめての書籍制作を経験されたと思います。いつもやられているレシピ考案に加えて、コラムの執筆や料理の撮影など、長田さんが関わった範囲も広いと聞いています。 |
とにかく、できることはすべてやりました! 初めて文章の校閲や校正の確認もさせていただいて、こんなにも大変なのかと…(笑)。 |
ご本人の文章で書かれているので、丁寧で、分かりやすい本になっていると感じましたよ。美味しそうな料理の写真も素敵ですし、本書のいたるところから長田さんの情熱が表れていると思います。 |
そう言っていただけるとうれしいです。 撮影時はすべての料理を実際に作っていて、フードスタイリストも自分で担当しました。3日間かけて48種類のレシピを撮影したので体力的にも大変でしたが、仕上がった写真を見てその苦労も吹き飛びました。 |
「本を出したい!」と思ってから5年が経ち、念願の出版ですもんね。ただ今回話しをお伺いして、苦労というよりも長田さんの“こだわり“の方が伝わってきました。 |
初めての本ですし、どうせならとことんこだわろうと。その結果、思っていた以上に書籍作りの大変さを知ることもできました(笑)。 「料理が苦手な人や好きな人」「肉は好きだけど、いつも同じ料理ばかりになってしまう」「とにかくいろいろな肉料理を食べたい人」など、多くの方に読んでもらえるとうれしいです! |
4.終わりに
私も本書を読んで、長田さんが紹介するテクニックを活用したり、レシピを見ながら肉料理を作ったりしました。書いてある通りに作った料理は家族も大絶賛!楽しく料理をして、おいしく食べて、褒めてもらって…。「あれ、これって幸せかも」と、ふと感じたのです。
幸せの価値観は人それぞれですが、毎日のことである食事や料理の時間が楽しくなることに越したことはありません。
食べることは生きること、食を通じて、健康と幸せを!
これは長田さんが活動の理念としている言葉だそうです。
念願叶っての出版ということもあり、長年の思いを凝縮した一冊となった本書。多くの方の“お料理ライフ”に、きっと役立つ存在になってくれるはずです。
¥1,650
発行/ダイヤモンド社
著者/長田絢
マンガ/ユニ
写真=古川寛二
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