2021.06.30 Wed
「未来に良い本を届けるために」。クラウドサービス『一冊!取引所』で出版社・書店の仕事を改革。流通の新たな選択肢に/株式会社カランタ
日本の出版業界における流通は、大手の取次会社が書店に本を卸す「取次(※1)」システムが王道です。これに対して昨今広がりつつあるのが、書店が出版社から直接本を仕入れる「直取引(※2)」。とくに直取引を行う出版社と書店の間では、営業活動や受発注に大きな労力を強いられることが課題となっていました。
そういった状況を打破し、「誰もがより便利に楽しく、オンラインで取引を行えるシステムを」と立ち上げられたのが、出版社と書店をつなぐプラットフォーム「一冊!取引所」です。直取引の出版社や取次ルートをもたない独立系の書店にも開かれた場となっており、現在も着々と参加出版社、参加書店を増やし続けています。
本サービスの開発・運営を行うのが株式会社カランタ。「原点回帰」「一冊入魂」を信条に話題作を続々と世に出し、早い時期から書店との直取引を行うなど、さまざまな挑戦を行ってきた出版社、ミシマ社(※3)とエンジニアが共同出資して2020年1月に設立された会社です。
2021年6月にはオープンからはや一周年を迎えた「一冊!取引所」。現在の出版業界においてなぜ必要とされており、どんな取り組みを行っているのか、そしていかなる未来を見据えているのか―。カランタの蓑原(みのはら)大祐さん、渡辺佑一さんにお話を伺いました。
※1 取次
出版社と書店をつなぐ流通業者、問屋のこと。出版社だけで自社の本を全国の書店へ届けようとすれば膨大なコストと手間がかかるので、作業を簡略化するため、「取次会社」が間に入って流通を行う。二大取次と言われる日販とトーハンの二社で、書店に卸す本の8割ほどのシェアを占める。ただ書店の利益率は総じて低く、新たに書店を始めるとき二大取次に口座を開設するためには、連帯保証人や担保設定を求められるなど、個人で開業を目指すには非常にハードルが高い。また流通コストが上昇しており、新規出版社との取引条件も年々厳しくなっていると言われている。
※2 直取引
書店が出版社から直接本を仕入れる取引のことで、昨今広がりつつある。「取次」を通す場合と比べると手間がかかるが、書店にとっては粗利が良いことが多く、新たに書店を始めた人たちにとっては利用しやすいルートとなっている。
※3 ミシマ社
編集者である三島邦弘氏が2006年に立ち上げた出版社。「原点回帰の出版社」として、ジャンルを問わず一冊入魂の本づくりを行っている。現在は東京と京都の二拠点体制で出版活動を行う。書店との直取引による販売手法でも知られ、手書きの「ミシマ社通信」や「コーヒーと一冊」シリーズ、「ミシマ社の本屋さん」など、読者や書店との新たな関係づくりに力を入れる。2019年には新レーベル「ちいさいミシマ社」を始動。本のつくり方と届け方の両面から、次世代のあり方を探索し続けている。
「一冊!取引所」の開発および運営を担当するデジタルコンテンツ制作会社。今回インタビューに登場いただいたのは、代表の蓑原大祐さんとサービス運営チームマネジャーの渡辺佑一さん。(HP)
この記事のライター/大塚亜依 子どものころから本が好きで、本や言葉のそばにいたくて編集・ライターの道へ。EmoBooksにて選書やブックレビューの執筆も担当。ミシマ社の本で好きな一冊は『自分と他人の許し方、あるいは愛し方(三砂ちづる)』。 |
目次
1.出版業界の常識にとらわれない、画期的な仕組みづくり
書店と出版社のための、新しい選択肢
2020年6月1日にオープンした、出版社と書店をつなぐクラウド型の受発注プラットフォーム。参加出版社数は81社、参加書店数は780店(2021年6月25日現在)で、着々と参加数を増やし続けている。
発起人のひとりであるミシマ社代表の三島邦弘氏は、「自分たちにとって本当に必要なシステムを開発していくことしか、中小企業の仕事改革などありえない」と言う。出版社は「本を作る」、書店は「本を売る」、それぞれの生命線となる仕事の領域を守るため、不退転の覚悟で『一冊!取引所』に取り組み続けていくと自ら宣言している。
はじめまして! |
カランタ代表の蓑原です。ミシマ社代表の三島とは、2006年に彼が東京・自由が丘でミシマ社を立ち上げたころ、ワンルームの小さなオフィスをシェアしていた間柄です。 私もちょうど同じ時期にウェブのクリエイティブディレクターとして独立しまして。それ以降、ミシマ社のホームページ等の構築・運営も手がけています。 |
三島さんから出版業界の内情をたびたび聞いておられて、何とかしたいという想いがあったそうですね。 |
そうですね。 ミシマ社は自社の本の流通に関して、取次を経由しない直取引というスタイルでもう15年ほどやってきた会社。3年ほど前、三島から本の受発注(※4)や請求書の管理にひどく苦労しているので、書店との取引をオンラインで行えるようなシステムをつくってほしいという相談を受けました。 話を聞いているうちに、「これはミシマ社だけの問題ではない」と。本に関わる人すべてが使えるシステムを作れば、業界全体が助かるのではと思い、私から提案して、以前から付き合いのあった腕利きエンジニアの今氏一路を迎え、『一冊!取引所』の構想が生まれました。 |
※4 本の受発注
日本の出版業界において、本の受発注にはいまだにFAXのやりとりが主流。FAXの注文書を受けとった出版社側は、それをPCに手入力して管理を行っている。手間も費用もかかり、間違いも起こりやすく、書店・出版社の規模を問わず積年の課題になっている。
『一冊!取引所』の受発注システム
本に関わる人の手助けになるようなシステムになっているんですね。 『一冊!取引所』のユーザーである出版社や書店の方にとって、どのようなメリットがあるか教えていただけますか? |
まずは、さまざまな出版社の本の情報が一括で見られます。 例えば、書店がミシマ社のような直取引の出版社の本を仕入れる場合、各社のホームページを訪れてその都度、注文しなくてはなりません。下手をすると一日がそれで終わってしまう…なんてことにもなりかねない。 でも、各社の書籍の情報が集まっている『一冊!取引所』に来れば、一括で本の情報を得られ、ワンクリックで注文できるので業務短縮につながります。 |
「本を探す」ページでは、著者や出版社などのキーワードを入力して検索が可能
なるほど!書籍の発注作業が格段に楽にできるようになったのですね。 実際の取引は、どのように行うことになるのでしょうか? |
出版社と書店との取引にチャット機能を使うことができます。 チャットなら相手との距離感が近く、フランクな会話ができることで、新しい展開も生まれやすくなる。業務に楽しさを感じてほしいですし、縁をはぐくむ場を提供できたらという想いです。さらに、誰もが気軽にアクセスできるような「オープンな場」という視点も重視し、わかりやすく、楽しみながら直感的にさわれるインターフェイスを目指しています。 また、出版社にはただ本を登録するだけでなく、発信もしてもらいたいので、プッシュ型の販促ができるように工夫しています。動画も貼れますし、すべての本の情報ページにURLを付け、ツイッターでPRしてもらうことも可能ですよ。 |
蓑原さんは出版業界ご出身ではないですよね。 この『一冊!取引所』の事業について、どんな思いをもって取り組まれているのでしょうか? |
はい、出版業界はド素人だったのですが…。いろいろと知っていくうちに、本の流通のために取次がいるのは素晴らしいことだけど、その“出版の大動脈”に乗れない人たちが多数いるということも感じました。 まず、口座(※5)を持てないと既存の流通には乗せられないので、「本は作れても流通ができないから…」と出版をあきらめざるを得ない人たちもいますよね。口座を持たない人でも流通ができるような、さらには新しい世代の人たちも出版社や書店を立ち上げる後押しができるような、そんなシステムでありたいという思いで取り組んでいます。 「未来に本を届ける」ことが目標です。 |
※5 口座
トーハンや日販などの取次から本を仕入れるためには口座を開いてもらうことが必要。だが、取次側が負担する配送コストの割に合う程度のビジネスの規模を求められ、また掛払い(先に商品やサービスを提供し、後で代金を支払ってもらう支払方法)で取引をするため、事前に保証人や「信任金」の用意も必要。ゆえに個人で口座開設を行うのはハードルが高いとされる。
『一冊!取引所』は、取次ルートを持っている人も活用できるシステムなんですよね。 |
既存の流通経路は不可欠なもので、自分たちが取って代われるものではありません。 ただ、選択肢を増やしたい。すでに流通経路を持っている人たちも活用でき、直取引をする人はもちろん、取次ルートでも使えるというのが特徴ですね。 私もエンジニアも、出版業界の人間ではないので従来の常識からはかけ離れたところもあり、だからこそ切り開ける部分もあるのではと思っています。 |
ユーザーの声を拾い、運用しながら常に改善
「ユーザーからの声を改善につなげていくため、可塑性、柔軟性のある開発体制を取っています」といった言葉がHPに記載されていますよね。 Webサイトの改善については、どのようなお考えをお持ちでしょうか? |
システムを提供して終わり、ということはありません。要望や意見をもらいながら、“みんなでつくり上げていきましょう!”というスタンスです。 システムを運用しながら機能を追加できる柔軟な設計にしており、機能の追加点や変更点は『一冊!カイゼン』というページで随時公開しています。 |
『一冊!カイゼン』のページを拝見すると、システムの改修やメンテナンスがかなりコンスタントに行われているようですね。 なぜこれほど速やかに対応できるのでしょうか? |
そこまで特別なことはしていませんよ。あえて言うなら、社内の連絡はすべてチャットツールを通してスピード感を出しています。お客様からの問い合わせもチャットツールと連携させて、即座に確認できる仕組みに。 つまり解決すべき問題は、優先順位を含めてスタッフ全員が共有できるようにしているんです。口頭で説明する時間を最小限にし、スタートダッシュを早めます。少数精鋭で密な連絡を心がけつつ、無駄のない動きを重視していますね。 |
なるほど。そういった問い合わせを含めて、書店や出版社の方の意見をすくい上げるために、何か工夫はされていますか? そのあたりは運営業務やプロモーションを担当している、渡辺さんが中心に取り組んでいるのでしょうか? |
そうですね。「何かあったら連絡下さいね」と待っているだけではなかなか書店や出版社の方の声は届きませんから、こちらから働きかけるようにしています。 まずは出版社側に使ってもらわないと始まらないシステムなので、平日は毎日、『一冊!取引所』からのお知らせや業界ニュースを掲載したニュースレターを配信。 思い立った時に動いてもらい、出版社の方の声をすくい上げられるように、「問い合わせなどはこのメールにご返信を」と呼びかけています |
書店や出版社の方とのコミュニケーションはすごく大切にしています。 渡辺がミシマ社で営業をしていた時代から続いている、書店との密なつながりも生きていますね。そういう点は各出版社に足を運んだり、連絡を取ったりなどのアナログなアプローチも大切にしながら、信頼関係を育てていけるように意識して取り組んでいます。 |
書店と出版社間の“熱”を高める関係づくり
ユーザー同士のコミュニケーションがとりやすいことも、『一冊!取引所』の優れた点の一つですよね。 |
ありがとうございます。書店が出版社に本を注文するルートはさまざまですが、取次の発注システムなどを利用する場合、どの書店のだれから注文が来たのかは出版社にはわからないんです。 『一冊!取引所』においては、ある本を、どの店の、誰が注文したかが明快です。さらにチャットを使ってやりとりするという道も確保されています。 最近の事例だと、淡路島でカフェを営み、取次を通さずに本や雑貨も販売するユーザーが『一冊!取引所』を通じてある出版社の本に出会い、その本のパネル展と関連イベントを開催しまして。出版社の方も実際にその方の店を訪れ、お会いしたそうです。 そういった心の通った展開が生まれやすいのは『一冊!取引所』の特徴なのかな、と思っています。 |
一冊に込められた熱を出版社と書店が共有できる場になっていて、新しい展開が生まれていく可能性や面白さがあるのですね! |
2.現場に“仕事改革”をもたらす他社とのコラボレーション
出版業界の進化につながるシステムを提供
ミシマ社のウェブ雑誌「みんなのミシマガジン」では、『一冊!取引所』の変遷や、運営への思いが綴られていますね。とくに、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に対する考え方が興味深かったです。 |
DXって、単に「デジタル化」「IT化」を指すわけではなく、「人々の生活をよりよく変化させる」というのが定義だそうです。 『一冊!取引所』においても、外部とのコラボレーションによって、いい変化につなげるかを重要視しています。最近の取り組みとしてはまず、「書店向けWeb商談会」に機能を提供しました。 |
コロナ禍の中、出版社有志が集い、オンラインで全国の書店と出会い、気軽に商談を行うことを目的に立ち上げられた。出展社として、全国の書店に「商品を卸したい」「サービスを提供したい」と考える出版社や企業が集結。2021年4月に行われた第二回の商談会には、出版社158社、書店員256人が参加した。
『一冊!取引所』は、「一冊!取引所15分操作レクチャー」という商談を設定し、さまざまな出版社に交じって出展社として、また機能を提供するサプライヤーとしても参加。「オンライン受注機能」や「システム内のチャット」、出版社を気にせず本をグルーピングできる「リードリスト機能」が活用された。
コロナ禍でどのように営業活動を行えばいいかという問題に直面した出版社らが手を組み、オンラインで自社の本のPRや書店との商談を行える場が生まれたわけですね。 直接会わずとも、対面して出版社と書店が信頼関係を築く良い機会にもなりそうです。 |
そうなるように願っています。実際にWeb会議ツールやチャットツールを活用し、出版社と書店の間で多くの商談が行われました。 このWeb商談会の実行委員長から『一冊!取引所』に「各出版社が受注から出庫までを安心して行えるように協力してもらえませんか」とお誘いをいただき、喜んでやらせてもらいました。本の取引の機会を「より良い方向に変化させること」に合致すると思ったからです。 |
『一冊!取引所』が持っている機能を提供することで、書店にとっての本との出会いの場を、より便利かつ安心な形で、広げることができたのですね。 |
より良い方向に変化するためのもう一つが、BooksPROさんとの連携です。 |
書店員を対象にしたWebサイトで、各出版社が登録した「書誌情報」、とくにこれから刊行する「近刊情報」を調べられる。
また書籍の販促につながるようなメディア掲載、テレビでの紹介、新聞広告、重版情報などの情報も閲覧可能。出版流通の根幹にかかわる「書誌」を業界三者(出版社・取次・書店)で共用するという、より大きな目的もあり、そのデータベースは、業界共有の「インフラ」となっている。
われわれ『一冊!取引所』も本の登録の際に利用しているBooksPROですが、営利を目的としないゆえにこれまでは発注ができないのが弱点でした。それが今年3月から外部の受発注サイトと連携することに。 BooksPRO内で閲覧した本が、外部の受発注サイトから注文可能な場合、そのサイトのバナーが表示されるというつくりです。小学館、講談社、KADOKAWAなど大手出版社の運営する受注サイトのほか、『一冊!取引所』もこれに加わっており、登録出版社の本の受注ができます。 書店にとってはさらに手間が減りますし、『一冊!取引所』に登録してくださっている出版社にとっても、BooksPRO経由で注文が来ればありがたいことなので、開発費をかけて取り組みました。 こちらも出版業界にとって前向きな変化につながると確信してのことです。 |
どちらも現場の方たちにとって、画期的な進化ですよね。一年たって、そういう流れが出てきたことに、希望を感じます。 |
3.目先の利益ではなく、未来の出版業界のために
目指すのはあくまでも現場のためのシステム
「一冊!取引所」の利用方法について、書店の登録は無料で、出版社からは一定の月額利用料以外の対価を請求していないということですが、利益はどのように生み出しているのですか? |
開発費もかかりますし、利益は今のところあまりないです(笑)。 でもそれは想定内で、『一冊!取引所』のそもそもの目的は、10年後に出版業界が生き残り、新しい人たちが活躍できること。 出版社や書店など現場の方たちのためのシステムなので、黒字にならないからといって、皆さんの負担を増やすというのはおかしな話です。なるべく自己資金で、長い目で取り組む覚悟でいます。幸いにも私はエンジニアで別の仕事もしているので、その利益を充てたりして何とかやっています。 それとスタート時に、サポーター制度を立ち上げ、一般の方から企業様まで資金をサポートしていただいて、とても助かりました。 |
すごい覚悟をもって、やられているのですね。 |
たぶん誰かがやらないと、大手など資金力があるところしか生き残れずに業界が衰退していってしまう。未来の子どもたちのためにも、良書が生まれづらい世の中にはしたくないですから。 |
4.本に携わるすべての人のために、カランタができること
本を安心して届けられる存在であるために
今後、『一冊!取引所』をどのように進化させていきたいですか? |
現状、取引の場を提供するにとどまっているのですが、いま開発を進めているのが決済システムです。直取引代行のような形で「一冊!取引所」が決済を代行し、オンラインショッピングのように書店が仕入れできるような仕組みを開発中です。 それと出版社との倉庫の連携。『一冊!取引所』の中で各出版社の倉庫の情報を同期できるシステムを構築しているところです。 |
それはすごい!現場の方たちの負担が格段に減りますね。 |
出版社には本を作ること、書店には本を売ることに、より集中してもらいたいですから。 さらに、いずれは出版社だけでなく書店の利益にもつながるようなオンラインショップを展開し、一般読者も交えたコミュニティサイトにしていきたいと考えています。 |
本を流通させる方法が多様化している昨今。王道である取次システムだけでなく、直取引やそれを代行するシステム、大手出版社による独自の流通システムなど、さまざまなやり方が生まれていますよね。 最後に、そんな中で『一冊!取引所』はどんなポジションを目指しているのか、お聞かせください。 |
取次システムをはじめとするそれぞれのサービスも必要とされており、『一冊!取引所』だけで流通や取引が完結することはありません。 まずは、選択肢の一つとして、ほかのサービスの補填ができるような、「『一冊!取引所』があれば安心」と言われるような存在でいたいですね。そして、いずれはエンドユーザーの一般読者まで楽しめるようなプラットフォームを目指したいです。本を取引し、売買し、会話する場でもあるというようなイメージですね。 |
本を出すことに対する敷居が下がったからといって、本の質が悪くなるわけではなく、もっとニッチな企画が洗練された形で世に出てくると思っているんです。 今までなら出版社では実現しなかった企画も、個人の手で形にしやすくなりますから。営業も自分で行う覚悟で生み出す、強い思いが込められた本を私も見てみたいです。 |
『一冊!取引所』を活用すれば、本づくりがもっと身近に感じられそうです。流通や取引もこれまでよりうんと気軽にできますから。 |
このところ、本の読み手と売り手の境目が曖昧になっているという実感があります。 一個人がある本を読んで感動し、自分の思いとともに本を広めたいから売る側に回る、というようなことは起こりえるし、そういう場を作るということが『一冊!取引所』ならできるかもしれない。 例えば、掛け率(※6)についても、通常は一律で決まっていますが、決済のやり方次第では、本によって変えるということもできるのではと考えています。 |
※6 掛け率
商品の販売価格に対する仕入れ価格の割合のこと。「掛け率〇〇%」というように、パーセンテージで表示される。
編集者の仕事の幅も広がることになりそうですね。楽しみです。 今日はためになるお話をありがとうございました! |
4.終わりに
ミシマ社代表の三島さんが自社のシステム改革を思い立ったことから始まった『一冊!取引所』。
相談を受け「それならば!」と、出版界全体が使えるシステムを作ることを提案した蓑原さんも、それを受け入れた三島さんもすばらしいと思います。
「未来の子どもたちのためにも良書が生まれる環境を守りたい。子どもの時に読んだ本は、今も自分の一部になっているから」と蓑原さん。
かつては取次会社に勤めていたこともあるという渡辺さんは、「作り手と売り手の間で高まる本の熱量」を大切にされています。『一冊!取引所』で書店と出版社をつなぐその熱さを伝えることができるのがやりがいで、楽しく面白く仕事ができているそうです。かつて一緒に仕事をした仲間たちが『一冊!取引所』を利用してくれることが嬉しく、この先、本の世界に入ってくる人たちに出会えるのが楽しみで仕方ないと、生き生きと話してくださいました。
お二人(と三島さん)から共通して伝わってくるのが、「本に恩返しがしたい」という大きな思い。本を大切に思い、本とともに生きてこられた方たちが、そんな願いをもって作り上げている『一冊!取引所』。なんとも頼もしく、本の未来は明るいのでは、と思えてきます。
ちなみに渡辺さんの座右の銘は「本の近くにいると、いいことがある」だそう。私も一編集者として、読者として、ずっと本の近くにいたいから、彼らの挑戦を見続けて、応援していこうと思います。
- 蓑原大祐(みのはらだいすけ)さん/株式会社カランタ・代表取締役
東京電機大学理工学部卒。デザイン会社に入社後、2006年7月に制作会社dsk production(現ディーエスケープロダクション合同会社)を設立。大手企業のwebのディレクション、デザイン、構築、運営を担当。その経験から、企業のwebのあり方を提案し、社内システムも構築している。2020年1月株式会社カランタを設立し、代表取締役に就任。
- 渡辺佑一(わたなべゆういち)さん/株式会社カランタ・営業部部長
1976年埼玉県生まれ。成蹊大学文学部卒。2000年株式会社トーハンに入社し、特販部と北陸支店で勤務。2007年株式会社ミシマ社に最初の社員として入社。三島邦弘代表とともに直取引営業のスタイルを構築。2020年8月より同社も出資するウェブ開発の新会社、株式会社カランタに移籍。書店と出版社をつなぐ受発注プラットフォーム「一冊!取引所」の開発運営・普及に努めている。趣味は将棋。
イラスト=インディーグラフィック
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