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2020.11.13 Fri

本の紹介

『発注いただきました!』(集英社・朝井リョウ)/10年分の企業タイアップ&コラボ作品を集めた“お仕事小説”の決定版

『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、今年デビュー10周年となる作家・朝井リョウの作品集。

森永製菓、ディオール、JT、JRA、アサヒビール、サッポロビール…といった有名企業から受けた執筆依頼に対して、実際に納品した小説やエッセイなど合計20作を収録。さらに、原稿の依頼内容と書き終えての自作解説も掲載されています。

「こんな難しいお題にどう応える?」とわくわくしたり、「そうきたか!」と朝井リョウさんのテクニックに拍手を送ったり。創作の裏側を知って、作家の“スゴさ”を体感できる商業小説のバイブルのような一冊です。

発注いただきました!

¥1,760
発行/集英社
著者/朝井リョウ

この記事のライター/水野史恵(エディマート)

エディマートに所属し、編集や執筆の業務を担当。東海地方を中心とした情報誌や観光ガイドブック、新聞記事などを制作している。取材先で出会ったおいしいものや美しい景色はしっかりと手帳にメモをしておき、プライベートで再訪することも多い。


水野史恵
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1. 売れっ子作家の発注書の中身とは

『発注いただきました!』を本屋で見かけたとき、まず目に飛び込んできたのが告知ポスターのキャッチコピー。そこに書かれていたのは、発注書→本文→解説という文字でした。

私自身も、ライターとして企業から執筆の依頼を受けることがあります。だからこそ、「売れっ子作家に対する発注書とは、どんな内容なのだろうか…」と興味を持ち手に取りました。

本書内に登場する発注書の内容は、企業によって異なります。例えば、以下のようなオーダーが。

  • 人生の相棒をテーマにする短編
  • ウイスキーにまつわる小説
  • aikoの楽曲を題材にした小説
  • 「食べ物」や「食べること」にまつわるコラム

テーマと文字数の指定に加えて、「○○○という言葉を使用する」「最後は△△△で締める」など細かな指定が記載されています。

中には、「無茶ぶり」に思えるような難易度の高い内容も。

例えば…  キャラメルが登場する人間が主人公の小説で、247文字×3話分。3つそろえば1つの物語が楽しめる。

こんなお題に対して、少ない文字数できちんと物語を成立させたうえで、朝井リョウさんらしい工夫が垣間見えたのが、非常に印象的でした。どんな小説に仕上がったかは、ぜひ本作を読んで確かめてみてください。

このように、普段明かされることのない発注内容を見られるのは、裏側をのぞくようでワクワクしますよね。企業から示される多彩なリクエストに対して、考え、悩み、ひらめきを繰り返す朝井リョウさん。そんな、商業作家ならではのクリエイティブを体感しながら、小説が完成されていく過程を知ることができるのもポイントです。

 

2.数々の“条件”をクリアした完成度の高い短編作品

収録された短編20作は、どれも複数の条件を満たして書き上げられたタイアップ小説です。私もこれまで朝井リョウさんによるエッセイを何作か読んでいますが、本書に収録されている短編小説は少し異色と言えるかもしれません。

企業からのお題、文字数、ターゲット、キーワードなど、作品を生み出す上でおよそ自由とは言い難い“制限”の数々。そんな状況ながらも作者としてのカラーを打ち出している点に、プロであり、人気作家であるのだとつくづく実感しました。

そうした「タイアップ小説」「コラボ小説」について、朝井リョウさんは本書内で以下のように振り返っています。

この本の中には、ウイスキー、たばこ、競馬、香水など、私の日々の暮らしに馴染みのないアイテムがテーマになっている作品も多く収録されている。そうなると、自分から書き始めるような小説とは違い、これまで書いたことのないシーンや感情が生まれることも多く、単純に楽しい。私は、小説を書きながら、自分、自分、となりすぎてしまうきらいがあるので、フィクション度の高い作品に挑めるという意味で、タイアップやコラボというのは実はいいトレーニングになっていた実感がある(以上「はじめに」より引用)

 

この振り返りを読んで、文章を書く、ということとの向き合い方を改めて考えさせられました。

また、作品と解説がセットになっている部分からも、「タイアップ小説」「コラボ小説」への理解をスムーズに促してくれます。朝井リョウさんが発注に対して、どんな発想をしたのか、どのように対応をしたのか。本音やミニエッセイのような余談を織り交ぜた、ユーモアたっぷりの解説も見どころです

企業の希望に寄り添いつつ、「朝井リョウさんのエッセンス」を残した小説たち。

朝井リョウさんのファンのみならず、「文章に興味のある方」なら誰でも満足できる内容ではないでしょうか。

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3.自分が仕事をする意味を考えるきっかけに

編集・ライターの会社に入って数年が経過し、ふと自分がその仕事をする「理由」を考えるときがあります。

ときには、「自分の仕事に意味を感じられない…」なんて思ったりして、上手くモチベーションを保てないことも。そんなときにこの本を読みなおすと、朝井リョウさんのプロフェッショナルを目の当たりにして、自分が奮い立たされます。

247文字の短い文章に“らしさ”を盛り込み、ストーリーとして成立たせる

そんな仕事ができるからこそ、この人に「発注したい!」と思わせるのではないでしょうか。プロの仕事をするために、目の前の仕事を全力で行い、仕事の幅を広げることで、どんな仕事であっても意味を見出せるのだと、私自身も考えるようになりました。

職業や立場が違っていても、プロの仕事から学べることはたくさんあります。そんな、プロの仕事をのぞき見できる小説をぜひ楽しんでください。

発注いただきました!

¥1,760
発行/集英社
著者/朝井リョウ

 

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FUMIE MIZUNO

この記事の執筆者FUMIE MIZUNOクリエイティブ・ディレクター

大学卒業後、大手機械メーカーに就職。企画・広報業務を担当するなかで、自分自身で何かを作り上げたいという気持ちが芽生え、転職。2018年エディマートに入社する。学生時代はメディアプロデュースを専攻。テレビ番組や記事制作を通じて、「つくる」ことの楽しさを知り、編集の仕事に憧れを持つように。現在は主に雑誌や新聞の編集・ライター業務とオンライン書店「Emo Books」の運営を担当。食べることが大好きで、グルメ取材が何よりの楽しみ。女性アイドルと猫と野球をこよなく愛する編集者として日々奮闘中!

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