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2021.09.15 Wed

伝え方・働き方

「本を捨てないために何ができる?」。必要な人のもとに本を届ける“捨てたくない本”プロジェクトが、持続可能な本の循環を生み出す/株式会社バリューブックス取締役副社長・中村和義

イラスト

長野県上田市に拠点を置く古本買取・販売会社のバリューブックス

全国から毎日約2万冊も届くという古本を活用した、ユニークな取り組みの数々が注目を集めています。たくさんの本をバスに乗せ、小学校や保育施設を訪れてプレゼントしたり、インターネットの古本市場で販売が難しい本を地域の実店舗で格安で販売したり。

近年は、値崩れしにくい良書をつくっている出版社に、古本の売り上げの一部を還元するという革新的なプロジェクトにも着手しました。

買取についても、自社で開発した「本棚スキャン」などを通じ、売り手自身が古本の買取価格を査定できる独自のシステムで、他社と一線を画しています。

いずれの活動も、根底にあるのは「本を捨てたくない」という思い

バリューブックスは、どうやって廃棄本を減らし、持続可能な本の循環を実現しようとしているのか。その幅広い取り組みについて、取締役副社長の中村和義さんにお話を伺いました。

取材
株式会社バリューブックス
中村和義

株式会社バリューブックスの取締役副社長。ブックバスの立ち上げや無印良品との協業など、社外とのプロジェクトにも率先して取り組んでいる。(HPTwitter


大塚亜依

この記事のライター/大塚亜依

子どもの頃から本や言葉が好きで、編集の世界へ。古本屋も含め、本屋や図書館など本のある場所も大好きで、なじみの喫茶店で心ゆくまで読書や書きものをして過ごすのが、何よりの楽しみ。

1.「もったいない…!」から始まった“捨てたくない本”プロジェクト

廃棄本を減らすためにできることって?

捨てたくない本バリューブックスの捨てたくない本プロジェクト特設サイト


大塚亜依

はじめまして!

以前にバリューブックスさんに本を買い取ってもらったことがあり、安心して本を託せる会社だと感じていました。

HPを拝見し、ユニークな取り組みの数々に目を見開かれる思いです。

“捨てたくない本”プロジェクトとして、本を生かすための活動をされているということですが、そのきっかけを教えてください。

まずは、バリューブックスが誕生した経緯からお話しさせてください。

僕は創業当時から在籍しているわけではないので聞いた話にはなるのですが、創業者の中村大樹が大学を卒業した後に、何かできないかと3か月ほど考えながらいろいろ試しながら家で過ごしていた時のこと。

たまたま自宅にあった古本をAmazonに出品したところ、思いのほか高値で売れたそうです

すぐに古本屋を巡り、Amazonと価格差がある本を買い集めて販売するようになったというのがすべての始まりです。

そういった経緯での起業だったゆえ、何か大きなビジョンを掲げてスタートした会社ではなく、創業当時は一般的な古本の買取サイトとして、値段のつかない本は廃棄されていたと聞いています。

買取数や売上が増えていくのは単純に嬉しいことだが、事業が拡大するにつれて気づき始めるわけです。

毎日こんなに本を捨てるなんて、もったいない…!」と。

中村和義
中村さん

大塚亜依

その気づきからプロジェクトが始まっていったのですね!

バリューブックスさんのもとには、現在、毎日約2万冊もの本が全国から届くと伺いました。

届いたうち、約1万冊は廃棄されてしまいます。

廃棄と言っても焼却処分されるのではなく、古紙リサイクルに回るので紙には戻ります。とはいえ、できるだけ本は本のまま長く活用していきたい。

そんな思いから生まれたのが「ブックギフトプロジェクト」です。

ネットでは需要と供給のバランスが崩れている本も、手に取った人が欲しいと思えば必要な本になります。

リアルな場所で手渡すということには、まだまだ本を生かせる可能性がたくさんある。そのように考え、ブックギフトプロジェクトを通じて、市内の小学校や保育施設を中心に本をプレゼントしています。

中村和義
中村さん

大塚亜依

本を求めている人に必要な本を手渡せる取り組み。

素敵ですね!

当社のような古本の買取・販売の仕事は単純作業が多く、なかなかやりがいを感じられないという声があるのも事実です。しかし、ブックギフトプロジェクトは、手渡した相手から感謝を伝えてもらったり、喜ぶ顔が見たりすることができる。

社会貢献につながるプロジェクトを通じて、スタッフのやりがいにもつながっていると感じています

中村和義
中村さん

ブックギフトブックギフトプロジェクトでプレゼントされた本を読む子どもたち


大塚亜依

ほかにもいろいろなプロジェクトを立ち上げ、実践されていますよね。

それぞれのプロジェクトについて、教えていただけますか?

ブックギフトプロジェクトは、「本を捨てるのはもったいないから、何とかならないか?、「本を生かすために、何かできないか?」といった考えからスタートしたプロジェクトですが、その考えはほかのプロジェクトにおいても変わりません。

その考えが軸となり、2018年には、“捨てたくない本”を格安で販売する実店舗としてバリューブックス・ラボをオープンしました。

バリューブックス・ラボとは?「古紙回収に回される予定だった本」を集めたアウトレット書店。町の人が喜んでくれそうな本を選び、文庫本3冊100円、単行本1冊50円、写真集や絵本などの大型本は1冊100円と、格安で販売している。
もっと詳しく知りたい方はこちらへ。
バリューブックス・ラボ
長野県上田市にあるバリューブックス・ラボ

大塚亜依

地域の方を中心に多くの方が利用しているんですよね。そんな中、古書店を営む人が大量に購入していくこともあるのだとか。

いいんですか…!?

多くの本が活用されること自体が目的の場所なので、いいんです!

買った本を商売として販売してくれるというのは、その本たちに価値を見出してくれているということなのでどんどん活用してもらいたいです。

中村和義
中村さん

大塚亜依

なるほど!そういった考えのもと、運営されているということですね。

今回紹介いただいたプロジェクト以外にも、本にまつわるさまざまな取り組みをされているかと思います。

現在スタッフが約300名いらっしゃるとのことで、数多くのスタッフとプロジェクトを進めていく上で、大切にしているミッションはありますか?

日本および、世界中のすべての人々が本を読み、学び、楽しむ環境を整える」というのが当社のミッションです。

僕らはオンラインを中心に活動しており、インターネットは世界中の人々にリーチできる、一番効率的なツール。でもそれだけでは行き届かないところがたくさんあるので、本と出会い、手に取れるリアルな環境もつくっていきたい。

僕らだけでやるということではなく、本のある場所をつくろうとする人たちのお手伝いもしていけたらと思っています。

中村和義
中村さん

大塚亜依

なるほど。そのミッションを達成するために、すべてのプロジェクトがつながっているのですね。

2.持続可能なサービスを実現するための収益化

イラスト


大塚亜依

すみません。率直な疑問がありまして…。

バリューブックスの事業は社会性の強い取り組みも多いように感じますが、収益化はできているのでしょうか?

プロジェクトによりますね。

たとえば「ブックギフトプロジェクト」の場合、単体で考えれば赤字です。ただ取り組みそのものに価値を感じてくださる方がたくさんいらっしゃいます

そうやって自社のプロジェクトに共感してもらうことで、「どうせ本を売るのなら、大事に活用してくれそうなバリューブックスに送ろう」と思ってくれる人も増えていきました

つまり、個々のプロジェクトの収支で考えず、トータルで考えて良い方向に進むようにする

僕らが本を大切につなげようとすればするほど、本が集まり、結果的に収益につながればと考えています。

中村和義
中村さん

大塚亜依

なるほど。

バリューブックスさんにとっては、買取が最も注力すべき部分であり、取り組みに共感してくれる人を増やすことは、本を集めるためにも大事なのですね。

はい、買取は僕らの事業にとって肝ですね。

本の循環を持続可能な形で実現していくためには、どんな取り組みもビジネスにつながるようにすることは大切だと考えています。 

中村和義
中村さん

大塚亜依

インターネットでバリューブックスさんから本を買うと、納品書の後ろに読み物が付いていたり、翌月のカレンダーが封入されていたりしますよね

それも会社のことを知ってもらうための工夫なのでしょうか?

そうですね、買取より販売のほうが利用者の数はずっと多いんです。

販売でつながれるお客様との接点を大切にしたいというねらいがあっての試みです。

中村和義
中村さん

大塚亜依

たしかに本を買ってくれる人は、読み終われば本を売る人にもなりえますもんね

なぜ送料が有料に…?“サスティナブル買取”の仕組み

バリューブックス

バリューブックスの買取サイト。買取だけでなく売った本や読んだ本の管理もできる


大塚亜依

バリューブックスの会員制買取サイトでは、1箱につき送料500円を利用者が負担する代わりに、買取金額をこれまでの1.5倍にするという形での「サスティナブル買取」を実践していますよね。

どんな意図を持ったサービスなのでしょうか?

こちらも、そもそもは捨てる本を減らすことが目的です。

3年ほど前までは、多くの他社と同様に、送料無料で一括買取を行っていました。その中で課題となっていたのが、今までもお伝えしたように、弊社では買い取ることができない本がたくさん届いてしまうということです。その大半は、弊社から古紙リサイクルに回すことになるのですが、それであれば、本来はお客様のご自宅近くの資源回収に出していただくほうが、無駄な送料だけでなく無駄な運搬による環境コストも抑えることができ、エコだと思っています。

だから、弊社が買い取れる本をなるべく送っていただくようにするためには、送料を一部有料としてお客様にご負担いただき、その代わりに買取金額をそれまでの1.5倍にしようと考えました。

また、どんな本が買い取れて、どんな本が買い取れないのかをお客様自身で簡単に選別できるような事前査定ができるサービスもご用意しました。

中村和義
中村さん

大塚亜依

「本棚スキャン」ですね!

背表紙を並べて写真を撮ると、1冊ごとの査定金額が表示される画期的なサービスです。一冊ずつバーコードを読み込んで査定を行うこともできるんですよね。

本棚スキャンを利用することで、簡単に査定額を事前に把握できます。

お客様が本を売るかどうか決める際に、送料の有無はとても重要な判断材料ですよね。だからこそ、送料が有料であっても納得できる価格であるのかを判断してもらうことが必要だと思い、このサービスを開発しました。

もちろんお客様に手間をかけていただくことにはなりますが、これまで値段がつけられない本の輸送やその査定、保管などにかかっていたコストが減る分、買取金額を1.5倍にして、メリットを感じてもらえるようにしています。

持続可能な本の循環を目指すために生み出した買取方法ですね。

中村和義
中村さん

大塚亜依

ユーザーにありのままを見せた、すごく正直なシステムですよね。

反応はいかがでしたか?

送料有料という大胆な施策ということもあり、実は始めた当時には、買取のお客様は半分に減ってしまいました。

でも買取可能な本の比率は、10%ほどアップしたんです。その後、今の買取方法に共感してくれる新規のお客様も増えていき、現在では送料無料だったころよりも多くの方にご利用いただいています

中村和義
中村さん

流通の最終地点であるがゆえの思いとは


大塚亜依

いくつかの出版社とパートナーシップを結んで行っているという「バリューブックス・エコシステム」。

こちらも“捨てたくない本”プロジェクトの一環なのでしょうか?

はい、そうです。

本の買取を通じて、一部の出版社の本はほとんど廃棄する必要がないと気づいたことから始まりました。

中村和義
中村さん
バリューブックス・エコシステムとは? 次の読者の手に渡る可能性が高く、市場で値崩れしにくい本を多く作り出している出版社とパートナーシップを結び、古本の売上の33%を還元するシステム。2017年にスタートし、現在4社の出版社とパートナーシップを結んでいる。
もっと詳しく知りたい方はこちらへ。

大塚亜依

古本の売上が、作り手である出版社に回っていく…! 革新的な取り組みですね。

日々、たくさんの廃棄本と向き合う中で、捨てられる本を減らすためにはそれらを活用するだけでなく、そもそもの「モノづくり」の部分に働きかけていく必要性を感じました。

長く読み継がれることを前提として丁寧に作られた本は、値崩れしにくく古紙リサイクルに回る率も低いというのが数字にも表れていました。

だからそういう本を生み出している出版社の活動を少しでもサポートできれば、結果的に廃棄本が少なくなるのでは、と。

中村和義
中村さん

大塚亜依

そのサポートが「バリューブックス・エコシステム」ということですね。

現在は、一次流通と二次流通(※)が分断されてしまっているので、どれだけ古本が売れても作り手に利益はないんです。

そんな中で、流通をつなげられるような働きかけを長いスパンで行っていくつもりです。

中村和義
中村さん

※ 一次流通と二次流通

一次流通とは、つくられた商品がほかの消費者を経由せずに、新品の状態で消費者の手に渡ること。対して二次流通とは、一度市場に出た商品、おもに中古品が再び販売されること。現在の出版業界において、一次流通である新刊と二次流通である古本の流通経路が分断されていることから、古本が売れても作者や出版社に利益が還元されることはない。


大塚亜依

読者にとっては新しい本か古本かという違いがあるだけで、一次流通なのか二次流通なのかということは重要ではないですもんね。

バリューブックスの取り組みからは一貫して、“本を捨てたくない”という思いが伝わります。

本の最終地点にいる者として、これからも集まってきた本を生かしてよりよい形で読者との接点をつくり、より持続可能な本の循環を生み出していけたら。

より多くの必要とする人たちに、本を本という形のまま届けられるような活動を続けていきたいですね。

中村和義
中村さん

大塚亜依

バリューブックスさんのこれからを、楽しみにしています。

今日は興味深いお話をありがとうございました!

3.一次流通と二次流通がつながるきっかけをつくり、持続可能な本の循環を

イラスト

本を生かし、すべての人が本を楽しむ環境をつくるために

「最終的には二次流通を踏まえたモノづくりができる状態を目指したい」と話す中村さん。たとえばある出版社の本の初版が5000部だったとして、増刷を考えたとき古本も選択肢になる、というふうに。今ある本を捨てないで生かし、サスティナブルな循環をつくっていくまさにバリューブックスの理想を体現した取り組みです。

また、必要な人に本を手渡すことのできるリアルな場も重視し、大きなバスに大量の本を詰め込み、移動式本屋として日本各地を回る「ブックバスが2017年に誕生しました。

ブックバス

イベントに呼ばれて出店することや、「ブックギフトプロジェクト」の活動においても、このバスに本を乗せて寄贈先に向かうこともあるそうです。

さらに今年7月には実店舗「茶と本 NABO」がリニューアルオープンしました。

本棚

ほかにも、すべては紹介しきれないくらい幅広く、本を生かすプロジェクトを進めている同社。目先の利益にとらわれることなく、目の前にある本を捨てないために「何とかできないか?」、活用するために「何かできないか?」という純粋な気持ちを、どんなときも大切にしてきました。

そして共感者を増やし、よい買取につなげることで収益化を図り、本の循環もビジネスもより持続可能な形を目指しています。

すべてのプロジェクトは、「日本および、世界中のすべての人が本を読み、学び、楽しむ環境を整える」というバリューブックスのミッションを通じてつながっているのです。

4.終わりに

ネットを通じて、たまたまバリューブックスの本を買ったときのこと。納品書の裏におすすめの本を紹介する読み物と、小さなカレンダーが付いていました。「人付き合いを見直すための5冊」という記事をふむふむと読み、郵便屋さんが本と一本の花を女の子に手渡すシーンが描かれたカレンダーを壁に飾りました。

そして、「本を好きな人たちがやっている会社なんだろうな」と思いました。そんなこともあって、楽しみにしていた本取材。

バリューブックスのもとに全国から届く2万冊(!)の本のうち、日々1万冊(!)が廃棄されているという現状…。

捨てないために様々な取り組みを重ねても、まだまだ古紙リサイクルに回ってしまう本は多いのだと思います。それでも決してあきらめず、目の前にある本を何とか生かしたいというまっすぐな思いから、都合の悪いことに目をつぶらず、新しい挑戦をやめないバリューブックスさんの姿勢には心を打たれましたし、ワクワクさせてもらいました。

インタビューを終えて、やっぱり本を大事に思う人たちがやっている会社なのだなあ、と実感。

そして、この世の中にいる多くの本好きのために、この先もずっと存在し続けてくれるよう願います。今度本を手放すときは、バリューブックスに託します! もちろん「本棚スキャン」を活用させてもらって。いつか、実店舗やブックカフェも訪ねてみたいです。

イラスト=インディーグラフィック

AI OTSUKA

この記事の執筆者AI OTSUKAライター・編集者

和歌山生まれ、おもに名古屋育ち。名古屋大学在学中、地理学を専攻してフィールドワークを学び、各地で「高齢者の余暇活動」をテーマに調査研究。生涯を通じて余暇を楽しむことの大切さ、人に話を聞いて文章で伝えることの面白さを実感し、編集の道へ。東京の編集プロダクションなどで約6年間、おもにタウン誌の制作に携わる。その後、名古屋へ戻り約8年間、エディマートに勤務。30代までの仕事に燃えた日々は一生の財産! 出産を経て、フリーのライター・編集者として再スタート。仕事と子育てと家事、家族と過ごす時間とひとり時間。ほどよいバランスを見つけようと試行錯誤の日々。

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