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2020.11.20 Fri

Bookレビュー

『人生はどこでもドア』(東洋経済新報社・稲垣えみ子)/ 異国で普段通りの「生活」をしてみたら…!?フランス・リヨンへの14日間の旅の記録

『人生はどこでもドア』(東洋経済新報社・稲垣えみ子)

夫も子も定職もなく、冷蔵庫も洗濯機も風呂もない。「楽しく閉じていく暮らし」を実践する稲垣さんの長年の憧れだったのが、海外暮らし。53歳の著者はふと思い立ち、フランス・リヨンへ14日間の旅に出ました。決めていたのは、東京にいるときと変わらぬ「生活」をすること。

フランス語は全然できず、英語も片言の身にとっては、何をするにも一大チャレンジ。武器は等身大の生活とアフロヘアー(!)のみ。そんななか、果たしてフランス人とコミュニケーションを取り、自分の居場所を作ることができるのか―。いざ、著者と一緒にフランス・リヨンへ!

人生はどこでもドア

¥1,540
発行/東洋経済新報社
著者/稲垣えみ子

この記事のライター/大塚亜依(ライター・編集者)

約8年間エディマートに勤めた後、フリーのライター・編集者に。学生時代は青春18きっぷの旅にはまり、「旅人」に憧れる。訪れた国は15か国ほどで、とくに思い出深いのは結婚の記念に旅したアイルランド、大好きなボレスワヴィエツ陶器目当てで訪れたポーランド。子育て中かつコロナ禍で、海外への旅がままならない今だからこそ、面白い旅行記を発掘したい!


大塚亜依
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1.著書『寂しい生活』にも描かれた、等身大の暮らしを携えて仏・リヨンへ

海外暮らしに長年憧れとコンプレックスを抱いていたという稲垣さん。50歳を機に、28年間勤めた朝日新聞社を早期退職。今こそ実現すべき時!と思い立ち、「さて、どんな滞在がしたいのか?」と自分に問いかけて出した答えが、「普段と同じ生活をする」ことでした。

自分が今一番真剣にやっている「生活」を旅先でも一生懸命やることで、「自分が何者なのか」をはっきりさせる。そうすれば現地の人とコミュニケーションをとることだって可能かもしれない。そう、旅先で本当にやってみたいことは、観光でも買い物でもなく、「コミュニケーション」だと、著者は気づいたのです。

ここで著者のご紹介がてら、その「生活」について説明を。夫も子も定職も持たない稲垣さんは、築50年の小さなワンルームマンションで一人暮らしをしています。東日本大震災の原発事故を機に、冷蔵庫も洗濯機もガス契約も手放し、洋服も家具もほとんど持たない「楽しく閉じていく生活」を実践中。

毎日カフェで仕事をし、豆腐屋や米屋などのなじみの店で買い物をし、銭湯へ通うなかで、自然に生まれていく人々とのつながりを大切にしながら自分の居場所を作っていく姿は、著書『寂しい生活』にも生き生きと描かれています。

さて、そんな稲垣さんの生活を、フランス・リヨンに持ち込んだらどうなるのでしょうか…? 著者の一ファンで、その知的かつ優しさとユーモアあふれる文章と、ユニークで芯のある生き方に魅了され続けてきた私。ワクワクしながら一緒にその旅を満喫したのでした。

2.言葉が通じないなかで、自分の居場所を作っていく方法とは…!?

稲垣さんの普段通りの生活。それは次のようなものです。

  • 日の出とともに起きる

  • ヨガをする

  • 買い物をする

  • 自炊をする

  • カフェで仕事をする

リヨンの地でもこれを実現すべく、マルシェが近くにあるキッチン付きの民泊“Airbnb(エアビーアンドビー)”を利用することに。本人が言っている通り、確かになんてことない生活…。でも言葉も分からない異国の地で実践するとなると、チャレンジの連続です。

勇気を出してマルシェで買い物したり、カフェに入るも、そっけない応対の連続に、稲垣さんは疎外感に包まれます。「ただの一度も、誰からも笑いかけてもらっていない。」そう、フランス人はむやみに笑わない。「知らない人にも笑顔で愛想よく」みたいな文化はないのです。

これまで「笑顔と会話」を強みにしてきた稲垣さんの前に大きな壁が…。でも彼女は決してあきらめません。カフェに通ううちに確信したのが「銭湯と同じようにふるまえばいいのだ!」ということ。

この銭湯スタイルとは、東京で銭湯の常連さんになじむために編み出した攻略法です。

本文より…  無理に輪に入ろうとするのではなく、周囲をよく観察。場のルールを守り、控えめに。しかし笑顔できちんと挨拶を繰り返すこと。つまりは、相手に敬意を表して行動すること。

稲垣さんはこれをマルシェでも応用。すると、フランス人が笑いかけてくれる確率が上がったのです!

さらに、地元のワインショップで、マルシェのパン屋さんで、何度か通ったカフェで、フランス人との嬉しいふれあいが次々と。ついには、マルシェで「そのアフロがいいね!」と褒められたりも…!

現地の人とふれあおうと工夫を重ねる稲垣さんの一生懸命さに心打たれます。今はSNSなどで簡単に人とつながれる時代かもしれませんが、人との関係を作っていくにはやはり努力が必要なのだと思います。でも難しいことじゃない。よく観察して相手の喜ぶことを想像し、どんな小さいことでもできることは精一杯、実践する。

そして、きちんと「生活」することは、相手に差し出す自分に自信を与えてくれる。軽快でユーモアラスに綴られたリヨンの日々の記録は、そのことを教えてくれます。とくに、言葉が通じない中での著者の試行錯誤の結晶、「イナガキ流マルシェ必勝法」「そしてフランス人から笑顔をゲットする方法」は必読です!

さらに稲垣さんは、マルシェなどで対面による量り売りという買い物を楽しむお年寄りたちの姿に、常々求めていた「江戸」を発見…! それは東京の自分の町に感じていた感覚と同じものでした。

「自分が自分の生活において探しているものさえわかっていれば、世界は我がご近所と化すのだ」と著者。なるほど。旅というと「自分探し」のイメージがありますが、自分を見つけてから旅ができたなら、どこにだって自分の居場所を見つけて広げていけるのですね。それは「大人の旅」ともいえそうです。

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3.暮らすように、生きるように、旅をしてたどり着いた幸せのカタチ

リヨン滞在の最後に、稲垣さんは自分にとっての「幸せ」とは何かにはっきりと気づき、素直にそれを綴っています。そして最終日、したいと思ったのは「お世話になった人に感謝を伝える」こと。部屋をできるかぎりきれいに掃除して整え、お礼のメッセージやプレゼント、花を準備。

「寂しいけれど寂しくない。人生最後の日もこんなふうにできたらいいのにね。」

そう思えたのは、稲垣さんが「暮らすように旅する」ことを超えて、「生きるように旅した」からなのではないでしょうか。

「生活」を大切にすること。日々を楽しむこと。自分がどんな人間で何を求めているか知ること。人とのつながりを地道に丁寧に作っていくこと。少しの勇気を持つこと。この旅の中で著者が示してくれたことは、生きるうえでも大事にしたいことばかり。

「私は私であればいいのである。そのことだけで、世界とつながっていけるのだ。」

本書の帯にも記されていたフレーズがあらためてぐっと心に迫り、希望をくれます。私もいつかこんな旅がしてみたい! すぐには難しいかもしれませんが、準備をしておくことはできるはず。まずは自分をよく知って、真剣に生活をしてみようと思います。近くにいる人を、ちゃんと見つめてみようと思います。

コロナ禍で海外への旅がままならない状況がいまなお続いていますが、本はいつでもどこへだって、私たちを連れていってくれます。ぜひ稲垣さんと一緒に笑ったり、ドキドキしたり、ほっこりしたりしながら、このちょっと個性的な旅を楽しんでみてください。読む人それぞれの、日常や幸せを見つめ直すきっかけにもなったなら嬉しいです。

人生はどこでもドア

¥1,540
発行/東洋経済新報社
著者/稲垣えみ子

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AI OTSUKA

この記事の執筆者AI OTSUKAライター・編集者

和歌山生まれ、おもに名古屋育ち。名古屋大学在学中、地理学を専攻してフィールドワークを学び、各地で「高齢者の余暇活動」をテーマに調査研究。生涯を通じて余暇を楽しむことの大切さ、人に話を聞いて文章で伝えることの面白さを実感し、編集の道へ。東京の編集プロダクションなどで約6年間、おもにタウン誌の制作に携わる。その後、名古屋へ戻り約8年間、エディマートに勤務。30代までの仕事に燃えた日々は一生の財産! 出産を経て、フリーのライター・編集者として再スタート。仕事と子育てと家事、家族と過ごす時間とひとり時間。ほどよいバランスを見つけようと試行錯誤の日々。

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