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2020.12.09 Wed

Bookレビュー

『こどもたちはまっている』(亜紀書房・荒井良二)/「待つこと」の中にある希望を描いた、“過去・現在・未来”のすべての子どもたちのための絵本

こどもたちはまっている,本

今日もゆっくりと一日が始まって、子どもたちは何かを待っています。船が通るのを、雨上がりを、ラクダが来るのを、お祝いの日を、夕焼けを…。すこしの心細さがまじった、待つことへの屈託のない希望が、色彩豊かな楽しく美しい風景と短い言葉で描かれていきます。そして、ページをめくるごとに、めぐる季節や繰り返される日常の美しさ、いとおしさが胸に広がっていく—。

今を生きる子どもたち、そしてかつて子どもだった大人たちにも届いてほしい、荒井良二さんの名作です。

こどもたちはまっている

¥1,760
発行/亜紀書房
著者/荒井良二

この記事のライター/大塚亜依(ライター・編集者)

約8年間エディマートに勤めた後、フリーのライター・編集者に。大学を卒業し、編集の仕事を始めた頃、荒井良二さんの作品に出会い、絵本のおもしろさをあらためて知る。3歳の息子に絵本を読み聞かせるのが、ほぼ毎晩の日課に。息子の今のお気に入りは、荒井良二さんの『たいようオルガン』と、ヨシタケシンスケさんの『おしっこちょっぴりもれたろう』!私が最近、感動した絵本は西原理恵子さんの『いけちゃんとぼく』。(今さらですが…、泣きましたー)


大塚亜依
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1.自分と息子のためにセレクト。荒井良二さんの原点が詰まった代表作

荒井良二さんの絵本に出会ったのは大人になってからのこと。20年近く前、『ぼくのキュートナ』という作品に恋に落ちるようにひかれたのが始まりです。

綴られた言葉も絵も、自由でユニークでかわいくて。「これは自分のための絵本だ!」と勝手に思い、大人も絵本を楽しんでいいんだと新しい宝物を発見したような嬉しさに包まれたことを覚えています。それ以来、コツコツと荒井さんの絵本を買い集めてきました。それは、いつも自分の楽しみのためでした。

本作「こどもたちはまっている」は、2020年6月に発表された荒井さんの新作です。書店で見かけたとき、「子どもにも読んであげたい!」という思いがわきました。

そして初めて自分のためだけではなく、(自分と)小さな息子のために荒井さんの絵本を買い求めたのでした。

ここで少し、荒井良二さんのご紹介を。今や日本を代表する絵本作家である荒井さんが、初めて絵本を作ったのは34歳の時。今年、デビュー30周年を迎えました。

2005年には「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」という『長くつ下のピッピ』で知られる絵本作家の名を冠した国際的な賞を、日本人として初めて受賞しています。スウェーデンのストックホルムで行われた授賞式で、荒井さんはギターを弾きながら自作の歌を歌い、感謝の気持ちを表現したそうです。素敵!

荒井さんが絵本のおもしろさを知ったのは19歳の頃だったといいます。自分に合った表現の仕方だと確信し、いつか絵本を作りたいと思うように。とくに影響を受けたのが、絵本作家の長新太さん。「大学生の時に、長新太『ちへいせんのみえるところ』を手に取ることがなかったら、絵本を作っていなかったと思う。」と、『こどもたちはまっている』の最後に記しています。

『ちへいせんのみえるところ』は、「でました。」の一言とともに地平線からいろいろな“何か”が顔を出すという不思議な絵本。「絵本はいいお話であるべきで、子どもへのメッセージがなくては」というような固い考えを吹き飛ばす内容に、当時の荒井さんは衝撃を受けたようです。

長さんへのオマージュともなる、荒井さんの原点が詰まった本作。シンプルなタイトルと、大地に立つ子どもたちが空を見上げる後ろ姿が印象的な大きな絵本を、ドキドキしながらまずは一人で開きました。

2.美しく物語に満ちたシーンの数々が、「待つこと」の先にある希望を表現

本文より… 

こどもたちはまっている ふねがとおるのをまっている

こどもたちはまっている ロバがくるのをまっている

「こどもたちはまっている」という一文が繰り返され、待っているものたちが描かれていきます。油絵のようなタッチで色鮮やかに描かれた美しい風景、細かいところまで物語の詰まった一つ一つのシーンにいつまでも浸っていたくなります。

とくに心に焼き付いているのが夏のシーン。海で遊ぶ子どもたちを、びっくりするくらい大きな入道雲が見守っています。混じり合う色彩が美しい穏やかな海と砂浜。その場面はどこか現実離れしていて、なんだか夢の中のよう。遠い記憶の中にある子どもの頃の夏につながっているようでもあり、温かな懐かしさに満たされます

ページをめくると家の中にも夏はやって来ています。花瓶に生けられた大きなヒマワリの命の輝きは圧倒的で、夏の明るいエネルギーに包まれていることがただただ嬉しくて楽しくてたまらない。そんな気持ちを思い出しました。その到来を待つことも含めて、大好きだった暑い季節。

「ねこがでてくるのをまっている」ページも、開くたび胸がときめきます。どこまでも広がる原っぱで、一生懸命に猫を探す子どもたち。猫は少し遠くにいるようですが、鳴き声がしているのかもしれません。野生の草は高くたくましく生い茂り、かき分けないと前へ進めません。

たっぷりの好奇心とともに「こわいものが出てきたらどうしよう…!」というドキドキ感まで伝わってくるようです。さて、猫は出てくるのでしょうか。猫が出てくるまでに、子どもたちは何かを見つけるのでしょうか…?

待つことの中には少しの心細さやこわさが含まれていることもあったけれど、子どもの頃の私もいつも楽しみなことや好きなものを待っていました。そしてそれが叶えられたときの嬉しさを体いっぱいで受け止めて笑っていた気がします。

待つことの先にはいつも明るい何かがありました。思い返してみれば、あの頃はいつも誰かや何かが小さな自分を守ってくれていたのでしょう。

本文より… 

こどもたちはまっている あめあがりをまっている

こどもたちはまっている ラクダがくるのをまっている

こどもたちはまっている おいわいのひをまっている

ページをめくるうちに自分も「こどもたち」の一人になって、いくつもの旅をしているような気分にもなってきます。

めぐる季節の中で繰り返される日常、ちょっと特別な時間、空想と現実の間の不思議な場所へ。そこには驚きと発見が満ちていて、世界も日常も本当はいつも新しくてこんなにも美しい

そして本当は大人だって守られているのかもしれない、と気づかされるのです。

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3.子どもたちと、かつて子どもだった大人たち。すべての人のための絵本

3歳になったばかりの息子もすぐにこの絵本が気に入ったようで「こどもたちのごほん、よんでー」と持ってきて、読んであげると「これはなに?」「これはだれ?」「ジュースはどこ?」「ねこさんだー」と指さします。

海を明々と照らす夕焼けや一面の雪景色を彼はまだ知りませんが、一生懸命見ています。いつか本物の風景に出会ったときに、この絵本のことを思い出してくれるでしょうか。

「荒井は絵本を通して、幸福と、わたしたち人間を、それも小さな子どもたちから大人までをしばっている常識からの自由を追求している。そして、絵本と言葉によって、常に対等の立場から読者と対話をしている」(荒井良二さん訳)

 

アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞したときの選評です。

私も子どもの頃に荒井さんの絵本に出会いたかったなあと思います。絵本の中でいくつもの旅をして、自由の風に吹かれたかったなあと。でも荒井さんはこう言ってくれています。

“「子どものために」描くということは、自分も含めた「過去・現在・未来に存在するすべての子どもたちのために」描くことだ”(『ぼくの絵本じゃあにぃ』より)

 

今、自分と息子のためにこの作品を読むことができたことを幸福に思います。長く長く読み継がれて、たくさんの子どもたちとかつて子どもだった大人たちに届くことを願います。

こどもたちはまっている

¥1,760
発行/亜紀書房
著者/荒井良二

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AI OTSUKA

この記事の執筆者AI OTSUKAライター・編集者

和歌山生まれ、おもに名古屋育ち。名古屋大学在学中、地理学を専攻してフィールドワークを学び、各地で「高齢者の余暇活動」をテーマに調査研究。生涯を通じて余暇を楽しむことの大切さ、人に話を聞いて文章で伝えることの面白さを実感し、編集の道へ。東京の編集プロダクションなどで約6年間、おもにタウン誌の制作に携わる。その後、名古屋へ戻り約8年間、エディマートに勤務。30代までの仕事に燃えた日々は一生の財産! 出産を経て、フリーのライター・編集者として再スタート。仕事と子育てと家事、家族と過ごす時間とひとり時間。ほどよいバランスを見つけようと試行錯誤の日々。

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